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地球千鳥足Ⅱ №46 [雑木林の四季]

変動と新生のイエロ1・ストーン公園

      小川地球村塾村長  小川律昭

 日本人が富士山に心の郷愁を感ずるように、ロッキー山脈を中心に広がる天然モニュメントの数々は、アメリカ人のみならず世界各地から人を引きつける。その代表イエロー・ストーンは、海抜二〇〇〇メートルの山岳高原で天然魔可不思議の百貨店である。渓谷、特色ある滝、二十を越す三〇〇〇メートル級の山々、何千個の温泉、冬には一メートルの氷の張る湖など、知りうる限りの自然の形態がそこにはある。アメリカで最初に国立公園に指定されたこの公園の名の由来だが、露出した地層に苔が生え、それが黄色く見えたことからつけられた。熊、大鹿、狼等、多くの動物が生息し、車の目の前で見ることが出来る。

 十年前、西から入国してすぐショックを受けたのが山火事の跡の真っ黒焦げの樹林だった。一〇キロ走ってもまだ続いた。愕然となった心は、道のど真ん中に座るバイソンによって慰められ、そのうち風景が豊かな緑に変わった。十年後の二〇〇一年、再び訪れた時には焼け跡は縁の若木に変わっており、バイソンの群れは健在だった。朝霧に包まれた木々の問を陽光が貫き、谷川にシルエットを描く様は幻想的だった。

 一定間隔で空中高く吹き上げる間歓泉はツーリストの呼びもの。次の噴出の瞬間をこの目で見ようと待っている人たち、池や湖の底から湧き上がる温泉群が点在し、流出するお潟の流れ込む熱い川から意気が昇る。野原一帯でもあちこちに蛸壺のように大小の穴ぼこ温泉が群をなし、その湯気が閻辺を霞のように巻いている。洞窟の奥で竜の咆哮のごとく音が反響する温泉もある。湖のほとりで銀色になった枯れ木がたたずんでいる様は、抽象画の世界で、立ち去りがたい。温泉のミネラル分を吸い上げ百年朽ちず耐えているという。
 他の呼びものは重畳する石灰石のパレットだった。受け皿から受け皿へ湯が溢れ、流れ落ちていたが、ここも十年後の二〇〇一年には変わっており、お湯は滴れ果て、パレットは一部こわれて過去の栄光いずこに、であった。その上方では突出した岩のど真ん中から湧き出した温泉が、塵れたローソクのように石灰層を作っていて、ここが新コースになっていた。新たに湧いた温泉群や空中に惜しみなく真珠が吹き上げられるような豪華な間駄泉も出現し、以前にはなかった遊歩道も作られていた。

 この公園が与えてくれる感動は大自然の変動と新生。何百年もの間、火事と蘇生を繰り返し、動植物の生息体系を変えて行く。山火事による枯れ木群の根元には実生の幼木が息づき、育っている。今豊かな森林も数十年後にはどうなるか。温泉これしかり。
 大小のすり鉢状の穴が至る所に見られ、盛んにブクブク湧いているもの、湯が滴れ、悲しげに語りかける穴もある。森羅万象が活動と枯渇を繰り返しながら新しいものに形態を変え、再び出現するのだ。人間社会も同様でありたい。先達の遺産は必ずや形を変え、発展的に再生されて行くべきことを、この大自然公園で学んだ。変動と新生のイエロー・ストーンに来て生の息吹きに触れ、十年後も生きてここを訪れようと心に誓った。
                         (二〇〇一年十二月)

『万年青年のための予防医学』 文芸社 


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