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住宅団地 記憶と再生 №32 [雑木林の四季]

ベルリン・ヘラースト地区の団地
 
      国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

団地再生への公的資金と当事者全員参加

 あえて特記するならば、団地の大規模改修にたいする住民の協力態勢と事業の進め方についてである。
 既存住宅を住民が住んだままの状態でここまで大規模に改修するうえでの住民の協力態勢づてりは学ぶべきだろう。住宅の所有形態は、おそらく買付が多く、管理者は単一組織ではないだろうから、団地改造を円滑にすすめ、再生を実現するには、計画段階から住民の参加、自治体をはじめ管理主体と建設会社、専門家等による協議と合意、それに公的資金の援助が不可欠である。そのプロセス、とくに住居および屋外改修にたいする住民の参加と裁量について詳細に知りたいところである。
 それに元々が社会主義体制のもとでの国営であり、ベルリン市に移管され、管理が民間組織に託されても、まだ民間資本の所有に分断されてはいまい。その背景が、利益本位の介入を許さず、関係者合意を進めやすくしていると思える。そのうえ、さきにも紹介した順重な都市更新のための12の原則」に象徴される基本の徹底である。団地再生への当事者全員参加、維持保全と改造の優先、公的資金の投入などの原則が実施に移されていった。こうした背景があり条件が保障されていてこそ、団地再生も進み、ひろい意味での国民資産の保護向上が実現するのであろう。
 さらに、へラースドルフの団地再生事業の理解を深めるために、あらためて「ヘラースドルフ・プロジェクト」と「へラースドルフとマルツアーン」地域の2点について補記しておく。

◇ヘラースドルフ・プロジェクト

 1981年に大団地建設をはじめ、10年後には建物の劣化、、住環境の不備が露呈していた。東西ドイツが統一して91年にベルリン市は、へラースドルフ全域の団地について、ヘラースドルフ住宅建設会社“Wohnungsbau gesellschaft Hellersdorf mbH=WoGeHe、その他パートナー企業とともに団地改修計画にのりだした。92年から94年にかけて6つの戦略のもとに各地区に固有の多様なモデル・プロジェクトを設定した。その実施にあたっての重要な前提として、目に見える形で住民に「団地改修が始まった」「住みとどまることにしよう」と思わせる必要、住民・行政・事業者の共同協力の必要、生活条件改善の長期的な目標と計画を明示する必要を指摘している。戦略の概要はつぎのとおりである(WoGeHe:The Hwllsersdorf Project)。ちなみにこれらは、都市計画の目標および計画作成にあたって考慮すべきと建設法典(2004年改正)が定める衡呈事項に対応している。
 戦略1:環境に配慮した住戸の近代化―9一雨水、太陽光の利用とごみ減量、ファサード、バルコニー、窓、玄関、階段室の改修、エレベーターの付設、住んだままでの工事の計画づくりをあげる。
 戦略2:居住階層、ニーズの多様化に対応する魅力の創建とソーシャル・ミッゥスの維持一一DIYをふくめ室内改修、バルコニーの拡張、都会生活と緑の享受、所有形態の多様化をかかげる。
 戦略3:都市機能をはたす都市センターの創出一―1992年の国際コンペにより、アリス・サロモン広場を中心にショッピング街だけでなく、医療・教育機関もあわせ、市民ホール、遊園地、アイスリング、緑の公園等をつくる。
 戦略4:生活水準と生活の質の改善一一若者にスポーツ施設、中高年に集会所の建設、野外映画会の開催・コミュニティの形成とともに砂漠から緑のオアシスへ,テナント庭園で「緑のリビング・ルーム」をめざす。
 戦略5:大団地を自然の領域に統合――バルコニーと庭園の連結ビオトープ、グリンベルトの形成、動物保護、自然保護と環境教育の推進をはかる。
 戦略6:計画実施は民主的に一―大団地の開発方針は住民の生活に直接影響をおよぼす。計画づくりには、まず住民の日常生活上の経験と意見を吸収し、それを行政、建築家、事業者の専門知識につなげる(住民は計画プロセスの最初から参加し、決定結果をうけいれる。住民参加なしの計画はありえない。くわえて、その地域の歴史をたどり、地域道産を活かす。

『住宅団地 記憶と再生』 東信堂


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