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住宅団地 記憶と再生 №31 [雑木林の四季]

ベルリン・ヘラースト地区の団地

      国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

全棟にエレベーター付設、バルコニーの拡張

 通路側から見える部分では、玄関回り、バルコニーの改修、エレベーターの付設などが、わたしの関心の的だった。それらはいずれも改修を際立たせるかのように非常にカラフルに彩色されていて、微笑ましくなった。,
 あとで気がついたのだが、わたしはベルリンの団地で片廊下式住棟をみた記憶がない。すべて階段室型である。旧東ベルリンのどこの団地でも中層住宅のエレベーター付設工事がすすめられている。終わっているといえようか。
 エレベ一タ-はごく簡易な造りで、住棟に接合している。車椅子ともう一人がようやく乗れる程度の狭い機種だが、高齢者や障かい者対策ならあれで十分で、各階のフロアーに止まる,。それにくらべ、わが公団住宅がごく一部の既存住棟に追築しているエレベーターは建屋と住棟を廊下でつなぐ方式をとり、もっと「立派」だが、階段室の踊り場止まりで、入口トアまではまた階段の上下が必要であり、だからだろうが隔階止まりにしている。金をかけるわりに不便である。エレベーター付設は本体とは独立の設備とみなし、接合型の造りは建築法税上認められないのだそうである。
 エレベーターの新設にあわせて玄関回わりを改修し、デザイン、色彩によって玄関ごとの個性化が見られる。
 バルコニーを拡張し、ロッジア風に改造して生活空間としての利用価値を高める工夫をしている。それぞれに花を飾り、道ゆく人たちの目を楽しませてくれる。よく確かめなかったが今になって、あれはバルコニーをロッジア風化して一部屋増築にしたほか、バルコニーのなかった側の外壁をぶち抜いてばるこにーを設置したのでないかと、自分の撮った写真を昆ながらそんな気がしてきた。バルコニーの改造等は、エレベーターの付設は別として、どの住棟でも行われているわけではない。全体から見ればまだ一部である、住民合意の形成、工事予算の都合等でおそらく10年、20年と時間をかけての長期計画だろうし、改修の方式、デザイン等も変わっていくのだろう。
 外から見ただけでもかなり大胆な改修をしているのだから、内部の階段室や室内の改造にはさらに興味深い。
 大胆な団地改造といえば、その手法に減築、さらには住戸の撤去もあるのだろうが、わたしが歩いたこの地区には高層の滅築も長い住棟の分断も気づかなかった。空き家は目についた。空き家の窓には、直径40センチはどのオレンジ色の丸い紙に「ミ一テ・ミヒ(私を借りて)と連絡先の電話番号を書いた貼り紙がしてあるからわかる。わたしの住む団地には階段によっては10戸に4戸、5戸の空き家があるから、窓にこんな貼り紙をしたら、どんな見世物になるか、異常な眺めであろう。
 2019年9月に再訪したさい、ミーテ・ミヒの貼り紙は見あたらなかったし、この地区では新築工事さえ見かけた。古い住棟を除却した跡なのか空地だったのかは分からない。地下車庫つきの家族壇住宅149戸の建設と標示している。へラースドルフを歩いてわたしが気づいた団地の現状である。

『住宅団地 記憶と再生』 東信堂


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