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西洋美術研究者が語る「日本美術は面白い」 №123 [文芸美術の森]

              明治開化の浮世絵師 小林清親
           美術ジャーナリスト 斎藤陽一
                 第6回 
      ≪「東京名所図」シリーズから:一日の中の光の変化≫

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 小林清親は、「東京名所図」シリーズにおいて、「朝から夜に至る一日」の中の光の変化と、「春から冬に至る季節ごと」の光の変化を表現しようとしています。小林清親は、時間・天候・季節によって変化する光と影を描き分けた画家だと言えます。
 これは、フランスの印象派の代表的な画家クロード・モネ(1840~1926)と共通する絵画観です。面白いことに、モネは1840年生れ、清親は1847年生れということで、清親は7歳ほど若いが、ほぼ同世代と言ってよい。もちろん清親が「印象派」のことを知っていたはずはないが、参考までに申し上げておきます。

 ここからは、まず「一日の中の光の変化」に焦点をあてて、清親の絵を鑑賞していきたいと思います。

≪暁の光≫

 「暁の光」を描いた作品からひとつ:

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 上図は、小林清親が明治12年(32歳)に制作した「東京両国百本杭暁之図」
 両国橋近くの隅田川の「夜明けの光景」を描いている。

 当時、このあたりの水量は今より多く、水流による岸辺の浸食を防ぐため、岸辺には多数の「棒杭」(ぼうぐい)が打ち込まれており、これを「百本杭」とか「千本杭」とか呼んだ。この絵で、岸辺にたくさんの棒のようにシルエットで見えているのが「百本杭」。

 この絵のみどころは、朝日が昇って間もない時刻の空と、暁の光の描写でしょう。
 雲間から顔を出したばかりの太陽は、まだ東の低いところにある。そのため、左側の家も、道を行く人力車も、淡い逆光の中で、黒いシルエットとなっている。

 先述したように、「人力車」は明治・東京の新しい乗り物でした。小林清親は、絵の中に「人力車」のモチーフを描くことを好みました。コロンビア大学教授で小林清親の研究者であるヘンリー・スミス氏によれば、「東京名所図」シリーズ93点のうち20点に「人力車」が登場しているそうです。
 それだけでなく、清親は、「人力車」を構図上の工夫のひとつとして役立てています。この絵でも、朝日に向かって走り行く「人力車」が構図の要となっており、これがいい味を出しています。 

≪朝の曙光≫

 「朝の曙光」を描いた清親の作品をもうひとつ。

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 これは、小林清親が明治13年(33歳)に制作した「萬代橋朝日出」
 ここに描かれた「萬代橋」(よろずばし)は、明治6年に神田川に架けられた東京最初の石造りの橋。アーチ状の橋が水面に映ると眼鏡のように見えたところから「眼鏡橋」とも呼ばれました。
 この「萬代橋」は、現在の「万世橋」(まんせいばし)の前身。現在の「万世橋」周辺には秋葉原電気街があり、とても賑わっていますが、明治初期はこのように閑散とした静かなところでした。時代の流れを感じさせますね。

 道の奥にそびえている洋館は、明治7年に開設された「税務局」。和洋折衷のこの建物は、「萬代橋」とともに、東京新名所となりました。

 小さな黒い影で表わされた人々は、この税務局に向かっているのでしょう。
 清親は、朝の光が空をバラ色に染め、地面を明るく照らす「朝の光景」として描いています。奥の方に向かう道路のグラデーションの微妙な違いに注目。西洋画風の色彩の濃淡による遠近表現です。

≪朝 霧≫

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 これは、明治13年制作の「大森朝の海」

 冬の早朝、朝霧の立ち込める海で、江戸時代からの名産品である「浅草海苔」を採る二人の女が描かれる。海苔の採集は冬に行なわれました。
 場所は、良質な江戸前の海苔が採れる大森の海岸。二人の女性は「べか舟」と呼ばれる海苔採り舟に乗っている。ひとりは艪をこぎ、姐さんかぶりの女は養殖した海苔がついた粗朶(そだ)を手繰り寄せている。舟がゆるやかに動く様子が、「ぼかし」による水面の白い筋となって表されている。
 舟の周り、水中から出ている枝のようなものは、海苔を養殖するために海に立てた「ヒビ」と呼ばれる木々。その影も水面にゆれている。

 遠くに霧の中に霞む水平線には、近代的な大型船や砲台(台場)が青いシルエットとなって浮かんでいる。さりげなく新旧の対比が示されています。
 冬の朝の冷たい空気感さえ伝わってくるような風景画ですね。


 次回もまた、小林清親の「東京名所図」を鑑賞します。

(次号に続く)




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