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住宅団地 記憶と再生 №29 [雑木林の四季]

Ⅳ 戦後建設の巨大団地の再生

   国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

 あとでくわしく述べるが、わが公団住宅の建て替え事業は、地価バブルを機に、これに便乗し1986年に急きょ始まった。バブルがはじけ、賃貸住宅市場の様相が変わり団地の一体的な建て替えが見込めなくなると、2000年代にはいって「団地再生」と名をかえ、地域のミニ再開発にあわせ団地削減にむかった。その間に国の住宅政策の基本は公共責任から市場原理に転換、公団は廃止され独立行政法人の都市再生機構に移行した。機構の賃貸住宅ストック政策は2007年の「再生・再編方針」に定められた。かつての全面建て替えの名目が「好立地を活かした良質な住宅の供給促進」とすれば、その後の団地再生の目標は、公団住宅の戸数削減、敷地の民間売却である。
 そのいずれもスクラップ・アンド・ビルト型の建物取り壊し、新規建設あるいは敷地の処分であることに変わりはなく、居住者の継続居住の保障は事業計画のどこにも位置づけられてこなかった。新設住宅に即した市場家賃を設定し、支払えない従前居住者には退去の道しかない。現にいまも「団地再生」とはいえ、事実は団地の一部(あるいは全体)住棟を取り壊して更地にし、民間あるいは機構による高層化と敷地売却が主なねらいである。居住者にたいしてはもっぱら移転先のあっせんである。この方針にマッタをかけ、居住の
継続安定と公共住宅として団地を守る住民運動の立場から、わたしはドイツに戦後建設された大団地の再整備事例に関心をよせ、見学してきた。
 とはいえ、これまで書いたルール地方の労働者住宅やフランクフルト郊外、ベルリンの近代的な住宅団地とちがって、数万戸にもおよぶ中高層の巨大団地ともなると、旅行者が見学して何かが分かるというには程遠く、垣間見たにすぎない。団地のなかを巡り歩いて、素人にも気づく改修の跡らしきものについての見聞や印象を記すだけである。それでも「団地再生」について考えるうえで役立つかもしれない。
 わたしが訪ねたのは、旧西ベルリンのメルキッシェス・フイアテルと、東の代表的なマルツアーン=へラースドルフ区の団地群である。そのはか、バウハウス100年を祝うデッサウに行ったさい、同市のツオーバーベルク団地に立ち寄った。
 1990年のドイツ統一後、とくに旧東ドイツで問題になったと聞くのは、戦後はプレハブ工法による建築がほとんどで、コンクリート・パネルの質が悪く建物、設備の劣化がすすみ、都市機能は不備、商業施設・公共サービスに欠け、人口が流出、空き家の増加がつづいている、団地内のバンダリズム(破壊行為)が社会問題化しているといった話である。
 これまで1970年代にはじまるドイツの古い住宅団地の修復、文化財としての保護、「慎重な都市更新」原則の徹底の経過をたどってきたが、戦後建設の大団地再生の課題解決には、さらにその枠組みを超えた革新的なプログラムが求められていた。その基軸となった代表的なプログラムが、政府が2002年に旧東ドイツ5州とベルリンにたいして実施した資金調達プログラム「東の都市改造」、旧西の連邦州でも04年にはじまった「西の都市改造」である。
 都市改造プログラムの対象地区は、さきに記した19世紀末から20世紀初めに形成された既成市街地と、戦後郊外に建設された大団地であり、とくに大団地については、差しせまった問題の解決にとどまらず、住棟の減築、撤去等を計画にとりいれ、「都市縮小」「集合住宅撤去」「団地再生」がキーワードとなった。
 ドイツの団地再生の政策決定と進捗状況については、わが国でも数多くのレポートが出ている。ここには、大村謙二郎の82ページにあげた論文のほか、「ドイツにおける縮小対応型都市計画:都市再生を中心に」(土地総合研究所『土地総合研究』2013年冬号)、「ドイツにおける団地再生と都市計画文脈」(日本都市計画学会『都市計画』Vol.65/No.4 2016/9)をあげておく。大村論文にかぎらず、レポートから知るところは多くても、わが国政府、そのもとで都市再生機構が進めている「団地再生」事業との接点はしめされない。参考に資するには、納望的な相違ばかりが目につく。研究者たちのレポートは他国の問題、経過の紹介に終始し、わが国で進行している政策、事業の実態への言及にはあま
りにも慎重にすぎる。
 以下にのべるメルキッシェス・フイアテルとマルツアーンの団地にかんするデータの一部は、ブラウン『分断ベルリンの大団地建設-メルキッシェス・フイアテルとマルツアーン』Braun,J・P:Groβsiedlungsbau im geteilten Berlin)から引いた。

『住宅団地 記憶と再生』 東信堂


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