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地球千鳥足Ⅱ №40 [雑木林の四季]

アルプスの少女アヤコ
  ~リヒテンシュタイン公国~

      小川地球村塾塾長  小川彩子

 ありのままの社会に感動し溶け込む私にとって、リヒテンシュタイン(Liechtensteiin.以下L)はとりわけ楽しい国だった。7月中旬、観光客の一人もいないハイランド、早朝のマルブンで、「アルプスの少女」アヤコは、なだらかな山を駆け巡りながら色とりどりの高山の花を摘み、可愛い花束を手に下界を見下ろしつつ 「ヤッホー」と叫び、「ヤッホー」と答える山彦との会話を楽しんだ。アルプスの少女ハイジがスイスはアルムの大自然を駆け巡ったように、皺少女アヤコはLの高地マルブンで心ゆくまでアルプス劇場の主役を楽しんだ。夕方にもまたやって来て、夕陽を浴び真っ赤に染まった山間で乳牛や可愛い大角の山羊を見た。マルブンは丘のように優しい山が折り重なるスキー場だが夏は人が少ない。日本の皇太子殿下がこの国の侯家から招かれてスキーをなさった山だ。誰も乗っていないリフトが揺れていた。乗って来たバスは少女アヤコが戻るまで待っていた。私は今マルブンの余韻に浸り、マルブンの花のカラフルな標本を眺めながらこれを書いている。
 立憲君主国Lはスイスと同様中立国、スイスから入国すると検問がなく、スイスとの関税協定によりスイス・フランを使用する。公用語は北りの強いドイツ語だ。私たちはスイスとの国境の街、サルガンスから郵便バスで首都ファドゥーツに来た。チューリッヒで友だちになった一女性はL出身、結婚してスイスへ。「スイスは物価が高いからファドゥーツヘ買い物に行く」と言っていた。ファドゥーツで親切にしてくれた一女性は「スイスから嫁いで来た」と語った。両国は密接な関係があり、国の違いを意識せず暮らせる。税金は安く失業率は低いと聞いた。この国の名の入った記念品を求める日本人グループに多く出会ったが、折角お土産に買ってもLiechtensteinの字はパッと読めない人が多かろう。
 ファドゥーツ城は下の街から見ると山の頂上に、まるでお伽の国のお城のようにそびえ立ち、誰でもそこまで登ってみたくなる。よいしょ、よいしょ、と自分を励まし、休み休み登ったがそれでも友だちになったドイツ人家族より早くお城に着いた。なんとこのお城は私が生まれた年に建立、オーストリアのリヒテンシュタイン家12代目、フランツ・ヨーゼフ2世侯(先代)がウィーンからファドゥーツのこの城へと住まいを移したのだった。
 私と同い年のこのお城の先代に興味を惹かれたが先代は既に亡く、現在はその息子の侯爵
ご一家がお住まいだ。侯爵家は国家元首、政治力は大きいが、国からの費用は辞退されているとか。従ってこのお城はプライベート・ゾーン、中には一歩も入れない。
 首都ファドゥーツと高地マルブンの中間に位置するトリーゼンベルクはなんという長閑な村だろう。海抜700~2000メートル、日当たりのいい斜面や坂の多い村、東スイス・アルプスからライン峡谷を見渡す庄倒される眺望はハイカーのパラダイスだ。中心部は海抜900メートル、この村の象徴オニオン・タワーがすぐに眼に飛び込んでくる。それは天辺にユニークで巨大な玉葱の尖塔が載っている聖ジョーゼフ教会の時計塔だ。玉葱の色は上品な青銅色、内部もとても美しい。私たち夫婦はその向かい側のホテル・クルムに泊まった。夜中に目覚めたらそのオニオン・タワーが、私の眼前で神秘な藍色に輝いていた。真夜中の幻想的オニオン劇場に魂を動員され眠ることあたわず、地元産BiOワインで乾杯した。
 坂道ばかりのトリーゼンベルクぶらぶら歩きは地球千鳥足夫婦、毒舌夫と頑固妻の生命にバイタリティと陽気さをもたらした。意見衝突の多い「異文化」夫婦もここでは仲良し、アルプスの少女ハイジやペーターのように口笛の合奏を楽しんだ。口笛の合間に出るのは眼下の眺望への感嘆詞ばかり。歩き疲れるとカフェに入り、そこのテラスからコーヒー片手にライン川を見下ろし、「絶景かな!」と口々に叫んだ。騙され事件も問題もなく、「ヤッホー」と「絶景かなー」を連発した国だった。
         (旅の期間一2012年 彩子)

『地球千鳥足』 幻冬舎


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