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住宅団地 記憶と再生 №28 [雑木林の四季]

「慎重な都市更新」原則と賃貸住宅「再公有化」運動 2

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

「慎重な都市更新12の原則」12Grundsatze der Stadterneuerungとは、つぎのとおりである。
1.再生は、現在の居住者や商工業者と共に計画し、本体を保持するかたちで実施されなければならない。
2.計画担当者は、再生の目標について現在の居住者や商工業者と意見が一致し、その技術的および社会的計画は共同して進めなければならない。
3.クロイツベルクの特色は維持されるべきであり、危機にさらされた地区の信頼と信用をとりもどされなければならない。放っておいたら建物が壊れてしまうようなダメージはすぐに修復されなければならない。
4.慎重に間取りを変えることは、新しい生活形態を可能にするためにも必要である。
5.建物全体や住居のリフォームは徐々に行われ、徐々に追加されていかなければならない。
6.建物の状況は、できるだけ取り壊しをしないで、中庭に緑を植えたり、建物の正面部分(ファサード)を変えたりすることで改善されなければならない。
7.道路、広場、緑地はもちろん公共施設は、必要に応じて更新され補充されなければならない。
8.社会計画における当事者たち(現在の居住者や商工業者)の参加権と物質的権利はきちんと規則化されなければならない。
9.都市再生の決定は公開で行われ、できるだけその場で討論されなければならない。当事者たちの意見表示は強化されるべきである。
10.信頼を得る都市再生を実行するには、確固たる予算保証が必要である。
 予算は個々のケースについてすぐに下り、すぐに使えるようでなければ ならない。
11.新しい形のスポンサー体制を開発する必要がある。受託される再開発課題(サービス業務)と建設措置は分離されるべきである。
12.このコンセプトによる都市再生は、IBA(国際建築展覧会)が終わってからも保証されなければならない。

 既成市街地にはじまったこの都市更新の原則が、巨大団地の団地再生にどのように発現しているかは、次章でみる。
 そのまえに、ドイツに起こっているもう一つの現実を見ておかなければならない。オンケルトムス・ヒュッテ団地の今後について危惧をしめしたように、住宅供給の市場化、民営化が進行している。行政はスクラップ・アンド・l・ルト型再開発をはじめ家賃設定等に法的規制をかけ、公的支援のもとに慎重に都市更新を進めながらも、他方で、とくに大都市の低所得層の居住をおけやかし、記念建造物や世界遺産団地の住宅もその波にさらわれかねない危機が迫っているのも事実である。
 さきにベルリンの古い団地の多くが、ゲハーグ杜の建設、現在ドイチェ・ボーネン社の所有・管理になっているのをみた。いまその同社が新たな住宅難の元凶の一つにあげられている。とくにベルリンでは「家賃の狂気」と低所得住民の追い出しが露わとなり、2019年4月6日、「ドイチェ・ボーネン仕没収」のプラカードをかかげ4万人がデモをおこなった。この日市民主導で、不動産会社各社がもつ総戸数のうち3,000戸以上の賃貸住宅はベルリン市が収用して公営の社会住宅にせよとの請願署名キャンペーンがはじめられた。成功すれば24万戸が没収され、社会化されるという。キャンペーンネームに、ベルリンに11万戸以上の賃貸住宅をもつドイチェ・ボーネン社があげられた。ドイツに住宅困窮が拡大し、「市場化」から「再公有化」への動きが活発になっている。その法制化をもとめる国民投票への署名運動が2019年にはじまり、いまその第2段階、21年9月の連邦議会とベルリン議会選挙に並行して収用にかんする国民投票の実現をめざしている。
 住宅公有化要求は、居住は人間の基本権を前提に、ボン基本法(ドイツ憲法)14条の2項「所有権の行使は公共の福祉に資するべきもの」、3項「公用収用は公共の福祉のためにのみ認められる」を根拠にしている。社民党・左派党・緑の党連立のベルリン市政はこの運動に距離をおいているようであるが、なりゆきが注目される。インターネットでDeutsche Wohenen enteignenをクリックすると、新しい動きがわかる。
 2019年9月、ブルーノ・タウトが建てたというクロイツベルクのアパートに住む知人を訪ねたさい、こんな話を聞いた。家主はアメリカ在住のユダヤ人でベルリン市内に貸家を数十戸所有している。管理サービスはいいとはいえないが、家賃値上げもしないので助かっている。不満はない、という。ベルリン旧市街の住宅は8割が賃貸で、社会住宅もまだ多い。民間借家といっても小規模所有の家主ばかりだが、近年は大手の不動産会社による員い占めが進んでおり、取り壊しも家賃値上げも規制されているはずだが、規制の網をくぐって、たとえば間取りの変更や室内改築を無理におこなって家賃値上げをし、低所得の若者や高齢者が追い出されている、と話していた。わたしも近くに、あちこちの窓にステッカー、横断幕をはりだしたアパートを見かけた。「街はみんなのもの」「ベルリンよ、買い戻せ」という文字が読めた。
(追記:住宅の市場化にたいし「再公有化」をもとめる住民運動が高まる反面、逆流も強まっている。ベルリン市(州)が独自に2020年施行した「家賃上限法」に連邦憲法裁判所は2021年4月15日、「無効」判決をくだした。また、ヨーロッパ最大といわれるドイツの住宅不動産グループ、ヴオノヴイアVONOVIAのドイチェ・ヴオーネン買収計画は2015年来ったえられてきたが、5月24日DW社が合意したと報じられた。)

『住宅団地 記憶と再生』 東信堂



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