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地球千鳥足Ⅱ №34 [雑木林の四季]

足元から見たアメリカ文化 その二

    小川地球村塾村長  小川律昭

素人の度胸が園際親善に
 熟年でピアノを習いだしたワイフが、アメリカで演奏会を開催するのだから、その度胸たるや驚きである。“Music and Luncheon"というタイトルで招待状を作った。ただ食べるだけの親善パーティーでは味気ない、ピアノ演奏会にかこつけての接待がみそ。日本の美しい曲を紹介し、日本食その他、多文化食を楽しんでもらおう、というわけだ。人前で演奏するからには人並み以上の練習をしたことだと思う。それに家に招待するとなるとその準備だって大変なこと。他家でピアノを借りる関係から招待客は三十人に絞られた。
 演奏はハッピに足袋姿でパフォーマンスを試み、選曲は日本民謡母体の「木曾節による小狂想曲」と童謡や抒情歌(コーラス入り)。技量ではなく熱意で訴えたものだから、その役者ぶりが評価されたようだった。
 食事も多種で日本料理の寿司や中華はケイタリングで、手作り料理の数々、うなぎまで用意したのだから、アメリカ人のそれと比べても規模も味覚も多彩であった。隣のスーザンも我がことと張りきって料理を手伝ってくれた。
  ピアノ演奏会が終わり、我が家に移動してからの舞台は紅葉散るバルコニー。ゆく秋を惜しむがごとく多色の紅葉がはらはらと、歓談する客のワイン・グラスに舞った。天はみずから助くる者を助く、で風情最高の日を準備してくれ、飲食と会話がはずんだ。普通のホーム・パーティーは「良い会だった」とお世辞を言ってすぐ帰り出すアメリカ人の客たちが、四時間居座ったのだから、満足してもらったと思う。現にワイフの博士号取得時の主管教授、ドクター・スワーミイが「アヤコは教え子ではなく今は友達である」と明言したのだから推して知るべしだろう。ある記事に「出席は金、欠席はみずからを錆びつかせる」と書かれていたが、これは人様の企画に参加すること。それならば自分の計画で企画、実行することはダイアモンドに匹敵するのではなかろうか。「思いつき即実行」の人生に乾杯!

オーペア制度
 住み込みで子守りをしながら学校にも行かせてもらえる女子留学生制度の一形態で、イギリスが発祥地。一方的な従属関係ではなく、双方にアドヴァンティジがある。実際に欧米では高校卒業生が、日本では大卒者が希望して海を渡るようだが、言葉のハンデから単身異国の文化に馴染める年頃ということのようだ。
 ところで、オーペアを受け入れ側として利用することは生活が豊かでないと難しい。オーペアを受け入れて利用するのは当然若い夫婦だから、それなりの所得がないと雇えないのだ。アメリカでは共稼ぎの場合それが出来る。一例をあげると主人は三十代後半、子供三人の家庭。日本からオーペアを一年契約で雇っている。もちろん大学卒、英語マスターという目標で応募した積極的な女性。その条件は子供の世話と親が留守中の子供の食事。週四十時間の仕事で報酬は月六〇〇ドル、勿論、土、日は自由時間である。車と携帯電話が自由に使えて、夜はコミュニティー・カレッジに通わせてもらっている。主人のジョンは温厚な性格の人、オーペアの日本女性は恵まれた家庭に派遣された方だろうが、結構日本の女性がアメリカに来ていると言っていた。日本からのオーペアの多くは英会話と異文化体験が目的。費用が要らず効果的な勉強法だから、積極的な若者に推薦したい。
 日本は、豊かなようでもオーペア制度を活用することは難しいと思う。たとえある程度の所得があったとしても、外国から子守りまでは雇わず、家族の犠牲でお金を蓄えることに精を出すだろう。若い一家がオーペアの車を準備してやることも難しいだろうし、やっぱり日本はある意味でまだ貧しいのかな。

「満足いただけなければ費用はいただきません
  これはエアコンの修理中の出来事。
 慣れたとはいえ異文化生活をしていると、災害や事故、難問が向こうからやってくる。これらをその都度解決するのだが、家も車も古いのでそれにまつわる故障が相次いだ。その中の一つに家のエアコンがあった。
 外気温四〇度と猛暑の時故障、頼みなれた修理会社は忙しいのかすぐには来ないし、やっと来た人はやたら太った老人。適当に点検し、「フレオン・ガス注入個所のネジが締め過ぎで開かない。古いから修理しても直る保証はない。新規購入が必要」と請求書をおいて帰ってしまった。この際の請求書は出張費とレイバー(労賃)で五八ドル、新規にエアコン購入をすればこの費用は不要という。夕方、見積りの連絡をくれたが一九二〇ドルと大変な金額。車のエアコンの修理に一七五〇ドルかかった直後だから考え直した。別の業者に改めて頼んだ。彼はフレオン・ガスを入れて「これでOKです」と言ったが稼動しても室温は下がらない。やっと翌々日来てモーターを取り替えて故障は直った。
 ところで前業者の五八ドルの請求額を支払うことに納得がいかない。ネジも開けなかったのに労賃を要求するなんて。せめてレイバー費だけは値切りたいとその会社に出かけた。社長にことの経緯を話すと、「貴方が満足出来ないなら私も満足出来ません。一ドルもいただきません」と。なるほどこの国でも話せばわかってもらえるのだ、と社長の名言に満足して帰宅した。        
                     (二〇〇一年十月)

『万年青年のための予防医学』 文芸社



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