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地球千鳥足Ⅱ №33 [雑木林の四季]

Tシャツが人を結ぶ世界の街角

      小川地球村塾塾長  小川彩子

  人間の胸は自己表現に最適の場所のようだ。書かれた文字が英語やスペイン語なら思わず頷き微笑む。東洋系でない人は漢字のTシャツを得意そうに着ている。「愛」、「友情」、「心機一転」、結構ですね。Tシャツ購入は単なる土産だけでなく、自己表現を楽しむ目的もありそうだ。
 アルゼンチン、アコンカグア登山口の街メンドーサで、天を突く並木通りをぶらついていた時のこと。登山姿の青年が追いかけて来て言った。「僕はあなたのTシャツの国から来ました! お話ししたいです!」と。その時着ていたTシャツはアウシュビッツ訪問時、ポーランドで買った「POLSKA」だった。
 近くのレストランで、名物メンドーサ・ワインで乾杯、ポーランドやアコンカグアの話が弾んだ。アコンカグア登山は私たち夫婦が先輩、といっても、私は4300メートルで高山病にかかり、ヘリコプターで下山したのだが。楽しいひとときを過ごし、その後も文通。日本で富士登山にも付き合った。
 フランス、モン・サンミッシェルの上り坂にあるホテルでエレベーターに乗った時、夫が着ていたTシャツの文字を指して、「私はその街から来ました!」と、メキシコの男性だった。Tシャツの文字は「Guadalajaara MEXICO」、11人の歌手がソンブレロを被り楽器を弾いている。メキシコのお酒、マルガリータを楽しみつつ、夫はメキシコ駐在時に元警察官に強盗された話をし、彼は「囚人の6割は元警察官です!」などと盛り上がった。
 タイ、泰緬(たいめん)鉄道の起点の街カンチヤナブリで3人の女性が、「あらまあ! コリーの顔じゃない! それともあなたのお顔?」と、私のTシャツを指さし話しかけてきた。そのTシャツは30年前、フィリピンのマラカニヤン宮殿前で買ったものでコリー・アキノ元大統領の似顔絵が表に描いてあり、その下には「1986 WOMAN OF THE YEAR CORAZON C.AQUINO PRESIDENT OF THE PHILIPPHNES」と。コリーさんのお顔は私にそっくりで、背中を見ない人は私の似顔絵と勘違いする。タイへ英語教師として招碑された30代半ばのフィリピン女性たちは母国の元大統領を知っていた。コリーはコラソンの愛称。現ベニグノ・アキノ大統領の母だ。Tシャツのご緑で泰緬鉄道の終点では同宿、3日間行動を共にした。
 エクアドルのイグアナ公園では韓国の青年と仲良くなった。私が着ていたハングル文字のTシャツにニコニコ近づいて来たのだ。オマーンでは市内観光バスで、ある紳士が「あなたのTシャツが好き」と。スペインで買ったもので、「DONDE ESTA MI CERVEZA (私のビールはどこ?)」と書いてある。彼は「私もビールが好き」とスペイン語で。テキサスから来た紳士だった。観光後、乗客5人でビールで「サルートウ(乾杯!)」。
 私の訪問国は105か国以上、ある時から記念のTシャツを求め始めたが、手元には現在60枚強。世界のTシャツで世界の街角に立ち、新たな出会いが生まれた。そのTシャツを世界地図のごとく並べたら、各国ごとの旅と珍奇な出会いが蒔絵のごとく蘇り連なった。Tシャツたちも新鮮な出会いを生み出したのだ。では、自分の座右の銘を印刷したTシャツを作ろうか。古いことわざ「God helps those who help themselves(天は自ら助くる者を助く)」なら完璧だ。
            (2016年執筆 彩子)

『地球千鳥足』 幻冬舎


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