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山猫軒ものがたり №26 [雑木林の四季]

龍の住む谷 1
         南 千代

  隣町の毛呂山に住む、ルネ岩間さん夫妻からヤギの親子をもらった。岩間さんは、ドーベルマンの繁殖をしており、山猫軒に玉子を買いに立ち寄ってくれたことで知り合った。
 犬をたくさん飼う都合上、彼らも山の中に住んでおり、ヤギも飼っていたが、世話が大変なので譲りたいと言う。最初は子ヤギだけもらうつもりで引取りに行った。子ヤギは生後lカ月半。母ヤギから離すとメエメエと泣きわめく。かわいそうになり、親子まとめて、となってしまった。
 柚畑の、山猫軒に近い場所に、夫が小さなヤギの小屋を作ってくれた。ヤギは、清潔好きで自分で踏みつけてしまった草や、気に入らないエサは絶対に食べない。毎朝、敷きワラを取り替え、草を刈ってきてやる。ブラシで体をこすってやる。体に鼻をくっつけて匂いを嗅ぐ。ヤギの匂いがする。ヤギの匂いとしか表現できない匂いである。
 天気の良い日は、山猫軒そばの草地を選んで、広い所につないでおく。ひっぽって行こうとしても、何が気に入らないのかテコでも動こうとしない時もある。とてもガンコな性格だ。
 しかし、うれしいことにヤギのミルクが飲めることになった。しぼり方は、組内の吉沢さんのおばあちゃん、おコウさんが教えてくれた。おコウさんは、天気が良いとたまに鶏を見に来たり散歩がてらやってくる。
「ヤギの乳は、人の乳に一番近いって言ってな。昔は乳の出が悪いとヤギからもらって、赤ん坊を育てたんだ」
 おコウさんは、話しながらしぼってみせてくれた。ジューッ、ジューッと勢い良く乳が出る。オッパイは、触るとポヨポヨしていて気持ちがいい。次第に、うまくしぼることができるようになった。
 乳も、ヤギと同じ匂いがする。しかし、草をたくさんやった日は草の匂いが、ワラをやった日はワラの匂いが乳の中にする。ポップコーンのクズをやると、バターの甘い香りがするヤギ乳となった。
 本家の紹介で知り合った川越のコニーフードの社長が、はじけなかったポップコーンのクズを鶏の飼料に使えないだろうかと届けてくれていた。コニーフードではドーナツやポップコーンを作っていて、こういうクズが出るのだ。社長も山猫軒の玉子をひいきにしてくれている一人だ。
 ヤギにコーヒー豆を食べさせたらコーヒー牛乳のような香りの孔が出るかもしれない。いつかぜひ実験してみたいが、夫が強く反対するので試せないでいる。
 ヤギの乳は、ヤギの子と私たち人間と、時には犬たちも一緒に楽しんだ。今度は、ヤギ乳でカッテージチーズを作った。カルピスの作り方を教えてくれたのは、八王子の磯沼さん。彼は、ジャージー種の牛の牧場を経営し、チーズやバターも作ったりと、研究熱心な人である。
 何なんだ、この犬たちは。一匹などは、栄養失調みたいに後ろ足がフラフラとしていて、うまく歩けない。

『山猫軒ものがたり』 春秋社


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