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地球千鳥足Ⅱ №32 [雑木林の四季]

ヌーディスト温泉‥眼の前に豊満なボディーが

      小川地球村塾村長  小川律昭

 コロラドは今回で五度日、久方振りの一人旅である。時は九月初旬。ここコロラドは松茸狩りで気にいった場所だが毎回新しいことを発見したいと思って出かける。飛行機もシンシナティ発午前六時、シカゴ経由と国内線では初めて早朝便を使ったが、早起きは大変だった。かつ、三連休のナショナル・ホリデーが入っていたので、宿泊のモーテルが取れない場合を想定して、テント、シュラフも持参した。案の定、土、日曜とも観光地のモーテルは満員で断られ、生まれて初めてのテント泊を体験した。

 海抜≡〇〇メートルのキャンプ場。一人用テントは狭く、地面に直接寝ているような感じだった。熊は匂いに敏感だからテント内に食べ物を持ち込まないように、との注意もあったし、寝苦しくてしょっちゅう寝返りはするし、朝方の冷気は厳しく、ほとんど睡眠が取れなかった。テントは懲りたので翌日は観光地を避け、次の大きな街まで三十分余計に走ってモーテルに宿泊した。これらは今までにはなかったことである。

 例により松茸狩りをし、温泉を探して浸かってきた。松茸は五十本採れたが、今夏は雨が多かったらしく運にも恵まれたようだ。昨年はゼロ本。生えている場所のノウハウも掴んだ。収穫した松茸は、新鮮そのものの状態でシンシナティに持ち帰り、後日日本人の若者たちと祝杯をあげて美味しく食べた。

 温泉プールの入り口で、四↑人ぐらいの真っ裸の老若男女に度胆をぬかれた。水泳パンツをはいていた私は、全員の視線を一身に感じた。それならとこちらも脱いで仲間になった。そこはグランド・ジャンクション市のオルビス温泉。ここも海抜二一〇〇メートルの高地にあり、四一~五一度の湯が各種プールに供給されている。メインは直径一〇メートルの円形プールで、周辺には石盤が敷かれ、底の部分は砂になっているすり鉢状の野外温泉である。生まれたままの姿でプールに浸かっている者、その脇で日光浴をして温まった体を冷やしている者、それぞれ屈託のないかっこうで寛いでいるのはなかなかのどかな光景だった。

 湯温はぬるめ、浴槽外で体を洗う習慣はないのでタオルを持ち込んでいない。二十三歳まで関金温泉(鳥取県)という田舎の男女混浴温泉で育った私には裸身に羞恥心も抵抗感もないが、あまりにも多くの人に圧倒された。身体を洗うという用事がないのでジーツと人々を観察するしかない。

 とにかく種々の色、大きさのもちものがあるということ。体型や顔よりも、ぶらさがっているものに男女両方の視線が注がれている。ヘアーの繁茂状況や色だってみな異なる。色付き人種は私だけ。衣類の脱ぎ着も周辺で行うが、それぞれのしぐさにも特徴がある。ほとんどの人がバスタオルは持参しているが、ヌーディスト集団が存在する文化であるから裸そのものには関心も薄く、みんな慣れた態度、ここに来るのは特に裸に慣れた温泉愛好者であろう。

 熱い温泉好みの人たち向きに、四、五人ぐらいしか入れない小さな屋外浴槽もあった。すけすけの囲いで仕切られていたが目の前で丸裸の白人娘が浸かったり、湯槽の縁に腰掛けたりするのには目のやり場に困った。老人には長寿の良薬になろうが、壮年だとたまらないだろう。慣れていなければ混浴は難しかろう。一般にアメリカ人はぬるめの湯を好むようであるからこの浴槽に入浴する人は少ない。

 温泉で夕立予告の雷に見舞われ、川沿いのこのお湯の入浴もそこそこに、急ぎ二マイルの山道を駆けあがった。雷になお追いかけられながら。車についたらグツタリきた。結果としてパラパラ程度ですんで良かったものの、我ながら自分の判断力、体力、目的意識、信念に感心した。もし降られていたら、トレイルは坂ばかりだから足元は滑るし泥んこになっていたはず。怪我もありえた。今回のコロラドはテント泊、松茸狩り、温泉探訪がRH的で、もちろん無事故帰宅は旅の最大の目的である。アメリカの山に単身で入って、熊と間違えられ撃たれたり、怪我をしたりでは一人旅は終焉だ。

 ヌーディスト温泉にはありとあらゆる裸がある。とくに連休という時期もあって入浴者が多く、まさに壮観という言葉が当てはまる光景であった。裸は正直である。裸身はある年齢までは魅力的だが、豊満さを誇った者もいずれは老い、萎えていく。人体の歴史のあらゆるモデルを眼前に見て、人間の運命を感じざるをえなかった。男女とも、動ける問に後悔のないよう活動してほしいものである。
                       (二〇〇一年十月)

『万年青年のための予防医学』 文芸社



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