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住宅団地 記憶と再生 №20 [雑木林の四季]

12.ブリッツの大団地(馬蹄形団地)GroBsiedlung Britz(Hufeisensiedlung)(Britz.Fritz.Reuter-Allee,Husung,Onkel-Braisig-Str.u.a.12359Berlin)
 
      国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治
 
住人3名にインタビュー 2

●クリストフ・イエンシュケさん(男性、40歳代末、ミニング通り)

 法律事務所をウンターデンリンデンにかまえ、私立の専門学校の教授として法律を教えている。専門は医療健康関係の法律。趣味は音楽。ここの住民でバンドをくみ、地下室で練習し、先週も馬蹄形入口の階段を観客席に芝生を舞台にコンサートを開いた。
 9歳の時に家族でここに越してきて(いまの住宅の隣の隣)、ブルーノ・タウト小学校にかよった。法学をアムステルダムやロンドンで学び、結婚して4人の子どもができ、プレンツラウアーベルクに住んでいたが、子どもの育つ環境としてはよくないので、ここで投資のために買っておいた住宅に入った。二つ買っておいてよかった。よくあることだが、妻と離婚することになり、もう一つの住宅には妻が住んでいる。子どもは一週間おきにここと妻の家のあいだを行き来しているが、近いし、どちらも間取りが同じなので子どもも落ち着く。2008年からこの家に住んでいる。
 壁の色の青かったところはそのまま青を残して絵画を付け足した。壁が茶色かったところなどは部分的に残した。もとはカッへルオーフェン(タイル張り暖炉)があったところに、いまはこういう暖炉をおいて使っている。
 たくさん住宅を買い占めて人に貸している会社はないが、金持ちでいくつか住宅を買って人に貸している人は数人いるようだ。それでも一人で10戸以上持っている人はいないだろう。ミュンヘンに住んでいる医者で、ここに何戸か買って貸している人を知っている。
 ノイケルン区というと貧乏な区というイメージがあるが、近所に住んでいるのは大学の教授や建築家などで労働者階層の人はいないし、多様性がない。政治的にもみんな社会民主党や緑の党に入れる人しか住んでいない。タウトが好きだからここに住んでいる、という人も多い。自分もその一人で、タウトにかんする本の初版本なども含めて集めていて日本で出たタウト関係の本も持っている。
 高校の教科書にもタウトと馬蹄形団地の記載がある。
 近所つきあいは、ありすぎて困る。子どもの頃には「大人になったら絶対にこういうところには住みたくない」と思った。たとえば、昼のみんなが静かにしていなければならない時間にピアノの練習をしていたら、隣の人が警察に電話して訴えたのが、すごくショックだった。隣人を見張り合い、上に言いつけるみたいな雰囲気があった。でも近所の人との距離のおき方に気をつけて暮らせば問題ない。
 世界遺産になったときに国からたくさんお金が出て、修復工事がおこなわれた。文化遺産なので外装は変えられないが、ここに越してきた人はこの建築が好きで越してきたので、変えたいとは思はない。ただ昔から住んでいる人でタウトになど関心がない人もいないわけではないので、世界遺産になったことを迷惑に思っている場合もある。おなじタウトが設計した「オンケルトムス・ヒュッテ」の建築も好きだが、あちらは「冬の庭」(ガラス張りのベランダ)などをつくるため元の壁を取り壊すなど、いろいろ元の建築を壊してしまったので世界遺産にはなれなかった。
 5月に馬蹄形住宅のフェスティバルがあるが、そのはかにも、ここに住んでいて1934年ナチスに殺された詩人エーリッヒ・ミューザムの詩を朗読するイベントなどもあの石段と芝生のあるところでおこなわれる(ミューザムの石碑は近くの道端に見かけた)。

『住宅団地 記憶と再生』 東信堂



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