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海の見る夢 №59 [雑木林の四季]

             海の見る夢
        ―Summer Song ~Louis Arm Strong~
                                             澁澤京子

 若いころは五月になると海に行き、コパトーンを全身に塗って甲羅干しし、誰よりも早く小麦色の肌を目指したが(昔は日焼けしているのがオシャレ)、灼熱の陽射しの降り注ぐ今日この頃、そんなことする人はもう誰もいなくなった。ココナッツの匂いのするコパトーン(よく、ソニープラザで売ってた)も、街でまったく見かけなくなってから久しい・・昔、夏というのは私にとって最も楽しい季節だったが、温暖化の影響で、今や夏は楽しいどころか、人類にとって脅威となるような「過酷な季節」となったのである。暴風雨や洪水、干ばつ、異常な高温はもはや日常茶飯事。グリーンランド、南極、北極の氷がすごい勢いで溶けているという・・シベリアの永久凍土が溶けるとメタンガスが噴出し、さらに温暖化が加速するらしい。すると循環していた海流がついに止まってしまうというが、ひどい猛暑が何年も続いたあとは、まさか『デイ・アフター・トゥモロー』のように大寒波が襲ってくるんだろうか・・。

私たちは、まさに「ゆでがえるの法則」のゆでがえるになっているような気もするが・・

昔、J.G.バラードのSF『沈んだ世界』が好きだったが、生きているうちに気候変動を経験するとは思わなかった・・愚かな大衆が「まさか」と言って何もしないのを後目に、常にごく少数の賢人は、ちゃんと未来の危険を炭鉱のカナリアのように予測するのである、すでに1972年『成長の限界』で気候変動を警告した、メドウズ率いるMITチームがまさにその少数の賢明なカナリアだろう・・よくSF映画やパニック映画で、主人公(地道な研究者)の忠告を無視したあげくに自滅してゆく(その他大勢の人々)が登場するが、私たちはその愚かな(その他大勢の人々)なんじゃないだろうか。さらに、そうした映画では、危機を忠告して歩く主人公にやたらと反発し、敵対する人物も出てくるが、それに当たるのは、トランプをはじめとする(気候変動否定論者)?映画では、そうした敵対者は、たいてい死にそうなところを主人公によって助けられ、最後には和解するのであるが・・

気候変動により、方向感覚を失ったクジラが群れで座礁したり、各地で熊が暴れるのも(山に餌がないのか?)、不機嫌なイルカが海水浴場に出てくるのも無理はないと思う。猛暑によるミツバチの大量死のニュースもつい最近見た・・人はどれだけミツバチをはじめとする昆虫の媒介による果物や穀物に依存していることか。動植物のほうが環境と密接な関係にあるため、人間よりもはるかに気候変動に敏感だろう。異常気象の影響を人より受けやすい家畜やペットなどの動植物、そして、犠牲になるのは動植物や、たいしてCO2を排出してこなかった貧しい地域の人々だったりするのである・・海温の上昇により、珊瑚は死滅して白化し(海の森林である珊瑚がなくなれば海洋生物に相当な打撃)、昆虫学者E・O・ウィルソンによると、今後50年の間に動植物の四分の一が絶滅の危機になるらしい。花粉媒介者(鳥や昆虫)がいなくなることにより被子植物の絶滅→昆虫がいなくなることによって枯渇する土壌→細菌や菌類の爆発的増加→伝染病の蔓延と食糧危機・・(ウィルソンは、殺虫剤の乱用は有用な虫まで殺してしまうのでやめてほしいと言っている)このままいけば、私たちにはとんでもなく暗い未来しかないではないか~『創造』E・O・ウィルソン (2004年出版) FAOの予測だと2030年には6億7千万人が飢餓にさらされるらしいが、異常気象のダメージが大きければ、もっとすさまじい数字になるんじゃないだろうか・・

異常気象と、連日36~8度の厳しい猛暑しか知らない若い子(グレタさん世代より下か)・・今は夏休みというのに、猛暑のためか真昼の集団住宅の中庭で遊ぶ子はいなく、シンと静まり返っている。・・私たちの利便性追求と経済至上主義、虫一匹いないクリーンで快適な生活のツケを支払わないといけないのは子供たち。

エアコンがなければ、今の温暖化した夏の東京はとても過ごせない。しかもそのエアコンは二酸化炭素の1万4000倍の温室効果を持つフロンを大量に放出するという悪循環・・特に都会では、「地球にやさしく」が、ただの無意味なスローガンになっている今の私たちの生活。断捨離は、ゴミが増えて環境に負担がかかるだけであり(スッキリするのは捨てる本人だけ。ガーナや南米にはファストファッションの古着が山と積り、ガーナの海では生活に必要な魚よりも洋服が釣れるとか。本よりも衣服が安く買える時代だが、いらなくなった古着は発展途上国に押し付けられて、アフリカや南米には巨大な古着のゴミ山がいくつもあるのである・これは人災では?)。さらに、私たちは地球だけじゃなく、古くなった人工衛星などで宇宙にもゴミをまき散らしているのである・・

そうすると、いかに物を捨てないで大切にする生活をするか、水を汚さないように、なるべく洗剤を使わないとか、なるべくゴミを出さない、環境を汚染しない生活をするかを考えたほうが、ずっとエコロジカルだろう。私の通っている修道院では、野菜の切れ端や卵の殻は細かく刻み庭に埋めている。雑巾を使い、おやつも手作り。雑巾の代わりにウェットティッシュを使えば楽だがゴミは増えるばかり・・料理も、お惣菜などを買ってきたほうが自分で作るより楽なのだが、プラスティックの入れ物などのゴミが増えるだけ・・エコロジカルな生活って、かなり手間暇がかかるものなのである。

私が子供の頃は、多摩川の水の汚染がひどくて、問題になっていたが、今はずいぶん改善されてきれいになった。仙川にはカワセミがいるほどで、要するに行政や市民の努力によってそこまで回復できたのだ。だから環境問題も、一人一人が実行するだけでも、ずいぶん違ってくるんじゃないかと思う。福島の放射能汚染水垂れ流しで大失敗したが、水質に関しては日本は優等生だったのである。東京の多摩地区では水道水のフッ素化合物の値が基準値を超えていることが問題になっていたが(現在、水道局が対応中)・・昔、映画「ダーク・ウォーターズ」でPFOSの怖さを知った。テフロン加工の実際の被害を知った一人の弁護士が、デュポン社を相手に起訴を起こした実話を元にした映画。水俣病のようにすぐに兆候が出るわけじゃなく、長い時間をかけて体を蝕んでゆくから怖い。(家畜の牛がまず人より先に犠牲になる)いまだにテフロン加工のデュポン社との裁判は継続中らしい・・

気候変動についてとてもわかりやすかった本が『14歳からの気候変動』と『14歳からの水と環境問題』。気候変動に関しては、学研などからもっと小さい子供向けの本がたくさん出版されているが、今の子供は小学校に入学すると、「気候変動」や脱・炭素の問題、水やエネルギー問題について学習し、「将来何になりたいか」の前に、まず「どうしたらサバイバルできるか」について考えないといけないようだ・・温暖化が人為的に引き起こされたことはすでに明らかになのである。(AIが算出した自然の気候変動と今の気候変動はグラフで見ると大きくくい違う)野生生物の絶滅の原因の多くは人為的なものであることを考えれば、気候変動の原因が人為的であるのは十分に腑に落ちる話。絶滅危惧種の中でも、温暖化の影響を受けているのは哺乳類(12%)鳥類(33%)無脊椎動物(32%)で、圧倒的に鳥類と昆虫の絶滅する割合が大きい。鳥類と昆虫類に影響があれば、植物、穀物にも影響があり、それによって私たちの食生活がもろにダメージを受けるのは前述したとおり。

それにもかかわらず、街路樹の樹木をまるで粗大ごみかなにかのように徹底的に撤去する、ビッグモーター社長のような鈍感な人物もいるが。植物を生物とも思わない鈍感さは、当然人を人とも思わない鈍感さに通じるのだろう(鈍感というより野蛮のほうが適切な表現かも・・)かつての奴隷制度が廃れていったように、ブラック企業も、いずれ近いうちに自滅するんじゃないかと思う。

平均気温が2度上がるのを、些細なことのように思うかもしれないが、些細な違いによって物事は大きく変わってゆくのであり、調和は、本当に微細で複雑なバランスの上に築かれるものなのである。仲間を守るためには動物のほうが人よりも、よほど利他的なのではないかと思う。動物のほうが、環境を含めた全体のバランスというものに対して、人間よりも敏感だからだ。肉体的能力も頭脳も優れていたクロマニヨン人より、知力も体力も劣るネアンデルタール人が生き残ったのは、お互いに寄り添いあって助け合うことをわかっていたからだそうだ。(宗教の起源はネアンデルタール人からはじまる)

ちなみに「14歳から知る~」(太田出版)シリーズは自然科学系の本が多いが、なかなか優れたシリーズで、思わず他の本も注文した。今だにゴアの時代の噂話である「CO2は犯人じゃない」説を信じている頑固な人々より、このシリーズをよく読んでいる中高生のほうが確実に賢いに違いない。そうした中高生の中から、環境問題に本気で取り組む優れた技術者や科学者、哲学者などが登場することを祈るばかり。

それにしても連日38度の酷暑が普通の夏になるとは!(今年の夏は、教会の中で、電車の中で、突然、倒れる人を二度も見た)・・陽射しが強く、青空には、妙に立体的にくっきりとした積乱雲が浮かんでいる。昔の東京の住宅街には、まだ街路樹や、庭の樹木というものが生い茂っていたのでところどころに木陰があったが、マンションが多く、木陰というもののほとんどなくなった夏の午後の東京の住宅街は、まるで灼熱の砂漠を歩いているかのように暑い・・国連の報告によると2050年までに、1億4300万人の気候難民が出て、人口の68%は都市に集中して流入、そのため都市は治安が悪化し、スラム化するらしい・・

サッチモの「サマー・ソング」のような美しい夏は、もう二度と戻らないのだろうか?

※これを書き終わったとき、マウイ島、ラハイナの山火事のニュースを知った。連日、異常乾燥が続いたうえに、さらに強風が火事を大きくしたという。専門家は異常気象が原因と指摘しているらしい。多くの犠牲者のご冥福をお祈りします。



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