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郷愁の詩人与謝蕪村 №11 [ことだま五七五]

春の部8

       詩人  萩原朔太郎

海手(うみて)より日は照(てり)つけて山桜

 海岸に近い南国の風景であり、光と色彩が強烈である。蕪村は関西の人であり、元来が南国人であるけれども、好んでまた南国の明るい風物を歌ったのは、彼自身が気質的にも南国人であったことを実証している。これに反して芭蕉は、好んで奥州(おうしゅう)や北国の暗い地方を旅行していた。芭蕉自身が、気質的に北国人であったからだろう。したがってまた、芭蕉は憂鬱(ゆううつ)で、蕪村は陽快。芭蕉は瞑想的(めいそうてき)で、蕪村は感覚的なのである。

畠(はた)うつや鳥さへ啼(なか)ぬ山蔭(やまかげ)に

 山村の白昼(まひる)。山の傾斜に沿うた蔭の畠で、農夫が一人、黙々として畠を耕(たがや)しているのである。空には白い雲が浮(うか)び、自然の悠々たる時劫(じこう)の外、物音一つしない閑寂さである。

柴漬(ふしづけ)の沈みもやらで春の雨

 春雨模糊(もこ)とした海岸に、沈みもやらで柴漬が漂っている。次の句も類想であり、いずれ優劣のない佳句である。
 よもすがら音なき雨や種俵たねだわら

『郷愁の詩人与謝蕪村』 青空文庫



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