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地球千鳥足Ⅱ №21 [雑木林の四季]

第9話 日本人亭主とアメリカ人妻の破局

         小川地球村塾村長  小川律昭

 良くアメリカ生活をしていて突然会社の帰国命令を受けた彼は日本に帰る気になれなかったのか、ここが人生の区切りと思ったのか思い切って退職した。その暫く前、ワイフから離婚を言い渡され、その理由もわからぬままに同意していた。だが現在でも誕生日には花束を贈っているという男の物語である。彼は会社を退職してラーメン屋を始めたのである。日本チェーン店のアメリカ進出を利用して、共同出資者として店を開いた。自分自身が職人として小麦粉を練り上げ、麺作りから教わっての出店だから、やる気は充分であったはず。だがその苦労は大変なものだった。

 彼が住んでいる都市には、日本人が一万人ほど住んでいるといわれる。彼らを対象に商売するのだが、スシ・レストランだって五十軒はある。友人から反対もあったようだ。サラリーマンが慣れぬ水商売への転職、覚悟だけでは成功は難しいことであったろう。だが仕事を始めて一・五年、店の経営やお客の好み、評判を気にかけながら何とか続けられる見通しがたった時、彼は病気になった。何せ一日十五時間働いて心身共に疲れたのだろう。身体がだるくて死にそうだったという。医者には精密検査を、と言われていた。年齢的にも五十五歳を過ぎての転職
だった。
 病気の内容は開けなかったが、死を覚悟したような口ぶりであった。一命を取りとめ、今は健康づくりに励んでいる。魚釣り、ゴルフと遊びに専心し、病は気からと言われたことをしっかり受け止め、病を克服したようであった。子供たちは独立していたようだから経済的には余裕がありそうだった。

 ところで離婚の理由だが…彼女の不満らしきことを奥さんから私のワイフが偶然聞かされた。それは六年前、その街のスシ・バーでのことであった。彼は日本からの客人接待で、客と話に夢中。相手は上司だったようだ。この国での慣習上、奥さんを同伴した。しかしそれは食事だけ付き合わせるものだった。だから奥さんは、ぽつねんとカウンターに座って詰まらなさそうにしていた。周りは日本人ばかり、まったく会話の外に置かれ相手にされていなかったのだから。
 そこにワイフが話しかけたので、日本人への不平不満が噴出した。彼女はアメリカ人、若い頃は顔立ちの良かったことが想像できた。彼らはァメリカ南部の一流大学で知り合い、どちらもマスターを修了し、結婚して日本でも生活している。その折の不便、不自由だった話も出た。今でも「彼は何もしないワンマンで思いやりがない」というようなことを彼女は言っていた。時々ワイフとの会話が聞こえるのか、彼が口を挟んでいたけれど。両方の言い分を聞かなければわからないが異文化間結婚の難しさが理由の大部分であったろぅ。子供たちが成人したのを機会に、離婚を決断したようだ。彼は住んでいた一〇〇万ドルの家屋を彼女にくれてやったと言っていたが、「女は強い」とももらしていた。

 この組とは逆に大変うまくいっている熟年夫婦がいる。ワイフの知人だが、日本人夫は日本企業の通訳、アメリカ人妻は博士号を持った大学教授。結婚四十年に及ぶ平和な夫婦だ。世界にはいろいろな国際結婚があり、うまくいっていないケースも、異文化間のコンフリクトなのか人間のミス・マッチかわからないが、日本人女性と外国人男性はうまくいっているケースが多いのはなぜか。ここにワイフが習った教授のコメントがある。アメリカの教室でアメリカ人女性へ向けた言葉だ。「日本人男性とは結婚するな」と。この教授は平和教育、グローバル教育を教える立場で、このコメントは「すべきでないと知ってるが、残念ながらアメリカ女性たちに言わざるを得ない」という言い訳つき。離婚率が高いからだという。日本人夫の考えるべき課題がまだまだ多い、ということであろう。
  (二〇〇一年九月)

【万年青年のための予防医学」 文芸社



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