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日めくり汀女俳句 №109 [ことだま五七五]

十一月十七日~十一月十九日

    俳句  中村汀女・文  中村一枝

十一月十七日
嫁とりの障子はりかへ八つ手咲く
    『薔薇粧ふ』 障子=冬 八つ手の花=冬

 結婚してしばらくしたころ、新聞に汀女の随筆が出ていた。何気なく読むと、嫁のことが書いてある。嫁が息子のことを「そうちゃん」と呼ぶのを聞いてびっくりし、つい夫の顔をうかがってしまった、というようなことだった。
 私が下北沢の家を訪ねた時、汀女も義姉も夫のことを「そうちゃん」と呼んでいた。その響きのぬくもりと親しみに、私も彼のことをそう呼ぼうと決めた。まさか汀女がその呼び名に戸惑いと困惑を感じていたなど、夢にも思わなかった。
 思えば昭和三十年代、夫の権威がまだ重かったころの話。

十一月十八日
ゆかりぞと誰にいふべき銀杏散る
           『薔薇粧ふ』 銀杏散る=冬

 テニス友達の百瀬フサエさんから聞いた思いがけない話。
 彼女の亡くなったご主人の父上は、百瀬葉千助(はちすけ)といい、阿蘇の特産あか牛の改良に功績のあった人。阿蘇農業学校の校長先生を二十年近く続けた。葉千助の父は元会津藩士。ご一新で北海道に移住した。葉千助は北海道から持ってきたクローバーの種を熊本の草原にまいて、百瀬草という名がある。家にあっても子煩悩そのものであり、学校では落ちこぼれの生徒を決して見捨てず、子供、子供と呼んでいた。
 明治から大正の優れた教育人。身近にあった阿蘇だった。

十一月十九日
コート着て母のさからふ風も見し
              『都鳥』 コート=冬

 「おばさんが三人集まると何か空気重くない」
 「そりゃあ、重量感よ」
 おばさんが三人寄っての話になった。
 「ふしぎに男が三人いても余り重くないのね」
 「近頃の男は自信ないからね」
 「おばさんになると厚かましいってことでしょ」「ある、ある、ある」異口同音の答え。
 「昔だったら絶対口に出せない事とか、人に言えない事も平気で言えちゃう」「恥ずかしいって感覚が抜け落ちてる」「年の功って事でしょう」「でも、自分の事は棚にあげて、人の見てると、うわあいやだってあれね」「美しくないよ」その一言でけりがついた。

『日めくり汀女俳句』 邑書林



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