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検証 公団居住60年 №115 [雑木林の四季]

第5部 存亡の岐路に立つ公団住宅

   国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

 公団住宅の廃止・民営化の政府方針を決定づけたのは、1999年の都市基盤整備公団の設立であった。
 分譲事業からの撤退をきめ、賃貸住宅についても再開発にともなう建設のみに限定し、市場家賃化と建て替えの法定化を定めた。小泉内閣は、2003年に特殊法人(公団)を独立行政法人に変えて、業務内容だけでなく組織上もこの政府方針を固め、06年には住生活基本法を制定して住宅政策の「構造改革」を仕上げた。小泉「改革」をうけつぎ、07年6月に第1次安倍内閣は「規制改革推進のための3か年計画」を発表して、その具体化に踏みだした。安倍首相はその年の9月に辞任したが、この「計画」は、自公内閣で改定、再改定され、民主党内閣になっても大筋ひきつがれた。これらが頓挫したのは、政策の大義や現実性の有無は別として、「3か年計画」を立てて1年とつづいた内閣がなかったし、民主党内閣は行政改革の目玉にすることしか考えていなかったせいかもしれない。
 2012年12月の第2次安倍内閣発足にあたっては、公団住宅「民営化」方針は手直しをよぎなくされ、「民営化」の文字は政府文書から消えた。前章でここまで書いてきた。
 第2次安倍以前の歴代内閣も、公団住宅すべてを一律に民営化の対象にしたわけではなく、住宅弱者の居住については、なんらかの公的責任をはたす建て前はとっていた。「公営住宅階層」、高齢・低所得等の居住者については、地方自治体なり「新法人」へ移すとしていた。しかし地方自治体にこれを受けいれる備えがあるはずもなく、都市機構にもその動きは見られなかった。民主党内閣のいう「新法人」もことばだけだった。できるならやってみよと内心思いつつも、それぞれの政局向けに公団住宅を弄び、居住者を居住不安に陥れる政治は許せなかった。もちろん居住者は楽観していたわけではない。重大な住まいの危機ととらえ、これをくい止めるため必死で活動してきたし、一貫して公共住宅として守る運動を展開してきた。
 第2次安倍内閣は2013年12月に、「民営化」の文字こそ消したが、早々に「団地統廃合の加速化計画を立てよ」「家賃引上げにむけて改定ルールを変更せよ」「低所得高齢者への特別措置を縮小せよ」と閣議決定した。居住者の居住安定をはかる施策についてはまったく触れていない。民間経営への外部化、株式会社化等を意味する「民営化」は不可能とあきらめて、「政府自体の民営化」に転じたのだろうか。
 中間所得層対象を建て前に発足した公団住宅の居住者は現在、過半が年金生活者であり、さらに増加していく。その多くは公営住宅対象の低所得層に重なる。政府・機構はこの居住者実態を知りながら、「近傍同種家賃」と称して過重な家賃負担を負わせ、高家賃なるがゆえに空き家は増大している。貴重な社会資産である公団住宅の空き家を放置して活用をせず、それどころか団地を壊し、更地にして売却する方向に走っている。
 「住宅セーフティネット法」があるという。法律名は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」であるが、政府自ら、そしてマスコミももっぱらこの略称というより、別称を使っている。国民に住の安心感をいだかせる効果はあろう。この法律は、公営住宅をはじめ公団住宅など公的賃貸住宅の供給を促進して国民の居住の安全網を整えると、別称先行で2007年に制定された。10年たって現実はどうか。この法がいかなる実効をもたらしたか。
 賃貸住宅をもとめる層は高齢者から若年層まで広がり、その数は今後とも増えつづけ、かつ家賃支払いが困難になってきている現状は、政府の新たな調査でも明らかになっている。これに反して、公営住宅は、とくに大都市圏では絶対的に不足しており、数十倍もの応募倍率にもかかわらず新規供給は停滞、むしろ減少しつつあり、公団住宅も高家賃化と団地削減の方向にある。政府はこの深刻な住宅事情と将来予測をまえに「新たなセーフティネット強化」を打ちださざるをえず、17年2月に同法の改正案を閣議決定した。
 改正案をみて驚いた。法改正の方向は、国と自治体が負うべき責任をほほ最終的に投げだし、自らが「公的賃貸住宅の増加は見込めない」と公言したうえで、今後は民間空き家の活用、民間事業者の協力が中心だという。公的賃貸住宅の役割を規定した第5条は第53条に退けた。「自力では居住を確保できない」とする住朝易者への国の「配慮」、「新たな住宅セーフティネット」の実体が、民間空き家への入居あっせん事業でしかない。住宅政策の末路を見る思いである。今回のセーフティネット法の改正は、わが国の住宅法制から、国が負うべき最後のセーフティネットさえも即ノ払ったとも断言できる。
 改正法は2017年4月19日に成立した0この法と法改正にたいする期待は当然あろうし、採択された付帯決議は同法改正の問題点を正しく指摘している。改正案の国会審議における政府答弁と付帯決議をふまえ活用して、国民の居住要求実現にむけて進むことになる。
 住宅セーフティネット法には、施策対象とする「住宅確保要配慮者」の明確な規定はなく、公団自治協はまず政敵こその明確な規定をもとめた。公団住宅居住者の相当部分は「要配慮者」にあたると想定されるからであり、公団住宅それ自体が住宅セーフティネットと位置づけられ、この法から目を離すことはできない。同時に、都市機構法25条4項は「規定の家賃支払いが困難な世帯」にたいする家賃の減免を定めており、その実施を政府・機構に要求し、いまや国会でも即ノ上げられている。
 いうまでもなく、公団住宅居住者の要求は、その居住者だけの運動で実現できるはずもなく、居住確保と安定をもとめる広範な国民的運動が必要であり、その現行法上の基本的な拠りどころは、あくまで公営住宅法である。国と自治体の責任で住宅困窮者に低廉な家賃の住宅を供給させる運動を基礎に、具体的にはひろく「家賃補助」制度を実現させていく共同した住宅運動が求められている。

『検証 公団居住60年』 東信堂



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