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日めくり汀女俳句 №108 [ことだま五七五]

十一月十四日~十一月十六日

    俳句  中村汀女・文 中村一枝

十一月十四日
みかん狩ねずみくはへし猫は駈け
         『薔薇粧ふ』 蜜柑狩=冬

 わが家の鼠は、例の仕掛け人軍団の活躍で一時的にせよ八月以降、音もしなくなった。
 ところが、三、四軒先の家で、糞が家の中にあったと言う。そのうち、同じ大田区内の友人から、またまた鼠の話を聞かされた。友人宅もこの夏、鼠が現れ、ダニに悩まされた点も、わが家と同じである。友人の話だと、地下鉄の駅や渋谷駅周辺でも鼠が集団で出没しており、中でも大田区は多いのだそうだ。
 今の鼠族、賢くて人間の対応の方が追いつかない。鼠に向かって断固たる決意を見せる姿勢が必要とのこと、鼠作戦末だ続きそう。

十一月十五日
顔まかす子のいとしけれ七五三
         『薔薇粧ふ』 七五三=冬

 幼い頃、近くに同い年の友達がいた。母親同士も仲良しで、お陰でいつも同じ格好をさせられた。三つのお祝いは白の水兵服。かもめの水兵さんの童謡がはやった頃だ。七つのお祝いには、お揃いの振り袖をどことかやらで注文した。その時彼女はピンクのしごきを着けていた。私のは黄色と赤のだんだら模様、ピンクのしごきがうらやましくて仕方なかった。その着物、三十年たって娘の七五三に受け継がれた。孫のために新しい着物をと心づもりしていた汀女は、少しがっかりしたらしい。そのあたり、今になると胸が痛い。

十一月十六日
山茶花に移らむ心ひそと居り
         『汀女句集』 山茶花=冬

 「熊本から山茶花の苗をいっぱい持ってきたから取りにきなさい」、と汀女から電話をもらったのは、二十年以上前のことである。汀女がなにかくれるというと、いつも「いりません、いりません」とにべもなく断る私にしては珍しくいそいそとした表情をしていた。
もらった三本(一本は椿だった)のうち結局、鮮やかな紅の山茶花だけが根づいた。
 ここ数年、また見事に花をつける。花を見ていると下北沢の家の庭に咲いていた、赤白だんだらの大輪の椿をふと思い出す。庭も、家も今はただ記憶の底に留められているだけである。

『日めくり汀女俳句』 邑書林



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