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日めくり汀女俳句 №106 [ことだま五七五]

十一月十一日~十一月十三日

     俳句  中村汀女・文  中村一枝

十一月十一日
水鳥の岸恋ふときぞ夕紅葉
        『紅白梅』 紅葉=秋

 パパママ、お父さんお母さん、どっちの呼び方が多いのだろう。子供のころ、パパママ
と言う友達がいて、それだけで彼女の周りに外国文化の匂いがたちこめる気がした。戦争
中のことで、間もなく彼女はお父様、お母様と呼び始めた。
 私の家ではお父ちゃん、お母ちゃんだった。そのことを随筆に書いたら、小学校の友
達から手紙を貰った。そういう呼び方をする私が、ぐんと親しいものに感じられたそう
だ。高校生のころ、母のことをうちの奥さんと呼んで伯母に叱られた。普通に親を呼ぶの
が恥ずかしい年ごろだった。

十一月十二日
咳の子のなぞなぞあそびきりもなや
         『春雪』 咳=冬

 子供のときひどい喘息持ちだった。秋から 冬・冬から春といった気圧の変動の激しい時はことにひどかった。胸が重い鉛のようで、そこにつまっている疾の出ない苦しみといったらなかった。
 当時、喘息がちっともロマンチックな病気でないのもいやだった。大てい美人や、有名人は結核にかかっていた。喘息は見た目にも、鼻や疾で顔がむくみきれいでないのだ。
 それに、その頃、喘息というのはおばあさんのなる痛気というイメージが強かったのだ。美しくない病気に不満だった。それが、おばあさんになったら、いつのまにか直っていた。

十一月十三日
末枯(うらが)るる何れの道を示すべき
           『花影』 末枯=冬

 私的なことが過ぎるかもしれないが、昨日は私たちの結婚記念日。
 夫と二度三度逢ううちに痩せっぽちの、ものを言う度に外国の役者のようにオーバーに肩をすくめるその男が、忘れがたくなってしまった。彼が、一方ならず酒癖の悪い男で、社内では顰蹙(ひんしゅく)を買っているという話が、彼の上司から洩れてきた。母は心配し、やめたらという。
 そのとき父は「若い時から上役にほめられるような男にろくな奴はおらん。かえって面白いじゃないか」。その一口で胸がすっきりした。もっとも酒癖の悪さはその通りであっ
たけれど。

『日めくり汀女俳句』 邑書林



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