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検証 公団居住60年 №111 [雑木林の四季]

XⅥ 規制改革路線をひきつぐ民主党政権、迷走の3年余

   国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治 

5.民主党内閣を動かした自治協の家賃値上げ反対運動

 都市機構は2010年9月、2年間先送りした継続家賃改定を2011年4月1日に実施する計画をしめした。機構が09年度に予定していた第10次改定は、国土交通大臣の要請により「当面延期」していた。そのため09年度の家賃収入ははじめて前年度実績を下回わり、①09~10年度の見送りによる減収見積額約30億円については行政刷新会議の事業仕分けでも指摘された。またその間、②市場家賃と継続家賃との禾離がひろがり、「全76万戸のうち、約13%にあたる約10万戸が近傍同種家賃より低い家賃で入居している。近傍同種家賃の方々との家賃負担の格差是正を早期に図る必要がある」という。くわえて、③株価の上昇、大企業の景気指数を例に「経済状況は改善された」と、家賃値上げの3つの理由をあげる。
 大企業の景気は考慮しても、家賃を払う居住者の経済状況には見向きもせず値上げをする機構の方針は論外として、「市場家賃との承離」から「負担の不公平」をとなえる筋立てもひどい暴論である。
 機構のいう「市場家賃」は、すでに述べたように、機構が査定を日本不動塵研究所に丸投げして得た結果でしかなく、それをもとにした家賃設定が空き家を増大させている現状が証明するように、客観的な市場性のない価格といわなければならない。空き家発生の原因は第一に高家賃であり、全国平均で機構の空き家率は11%をこえ、2割、3割の空き家もめずらしくない。空き家による家賃減収は数百億円にのぼるはずである。空き家を解消しうる家賃水準にもどしてこそ市場家賃といえよう。
 したがって「市場家賃との禾離」も「約30億円の減収」も、実体的な根拠のない作り話でしかない。約30億円の増収目標が先にあり、そのための理由づけとして考え出したのが「市場家賃との承離」であり「負担の不公平」論である。また「市場家賃との承離」論はそれだけでなく、引き下げるべき継続家賃を高止まりのまま据えおく理由、論拠にもしている。2009年度決算では家賃収入5,622億円から純利益634億円をあげ、10年度は空き家の増大等による減損損失315億円を計上し、家賃収入は5,567億円に減、それでも純利益276億円を上げている。
 家賃のくりかえし値上げによる退去、空き家増大の現状を、「空き家入居は定期借家契約で」「高額家賃物件は売却、処分を」の閣議決定と重ねあわせると、たんに市場家賃との格差是正ではなく、ねらいは居住者追い出しではないかと言いたくなる。定期借家契約の入居者がふえ、借家契約の終期を調整しておけば、機構の思惑どおりに団地処分もできる。

 全国自治協が、とくに与党民主党の旧公団居住安定化推進議員連盟にたいし家賃値上げ中止の働きかけをねばり強く要請したことはいうまでもない。2010年統一行動をしめくくる12月8日の全国公団住宅居住者総決起集会には全国から160団地1,068人が参加し、269団地約13.2万世帯、25.6万人の統一署名が集約された。集会では民主、自民、公明、共産、社民の5党から10人の議員が自治協の要求支援を表明し、野党から家賃値上げ中止は「民主党の決断しだい」をうながした。
 11年1月早々には機構は家賃値上げ通知の準備を終えていたが、発送を見合わせた。1月14日には管直人首相の内閣改造により国交大臣は馬渕澄夫から大畠章宏にかわった。この機をとらえて全国自治協はなんとしても値上げ実施をくい止めようと、通常国会召集日の翌日の1月25日、「家賃値上げ反対!団地自治会代表者国会要請集会」を衆院第2議員会館で急きょ開いた。
 集会は大きくもりあがった。92団地自治会の役員約150人が参加、与野党5党の国会議員18人と代理15人も出席、こぞって4月の家賃値上げ見送りをとなえた。機構の家賃改定方針を馬渕前大臣がすでに容認した経過はあるが、この国会集会のパンチは大畠新大臣に一定の影響をあたえたにちがいない。2月10日夜、大畠大臣は全国自治協役員と会見、そこには民主、自民の議連役員も同席した。要請をうけて大臣は「馬渕前大臣の方針を踏襲したい」とのべたうえで、「要望は十分に受けとめるべき」と都市機構に伝ぇると明言した。全国自治協は2月22日に機構本社に家賃値上げ実施の見合わせを申し入れた。
 都市機構は11年3月2日になって「UR賃貸住宅の継続家賃改定(家賃の格差是正)及び負担軽減措置について」と題し、7万8,000戸を対象に4月からの家賃値上げを発表した。ただし9月までは値上げ分「全額免除」、10月から12年3月までは「2分の1免除」、翌年4月から全額値上げを実施するという。
 全国自治協は同日これに抗議し、見解を表明した0値上げ世帯に通知をしたのは実施日のわずか20日前、3月11日であった。社会通念に反するばかりか、あまりにも強権的である。東日本大震災がおきたのは、その日であった。
 前回改定期の09年から2年間の家賃値上げ延期にくわえ事実上6か月さらに延期させるまでの自治協運動とその成果をどう評価するかはともかく、11年4月値上げにかんする馬渕、大畠両国交大臣の発言における変化は注目に値する。機構賃貸住宅の「市場家賃部分は民間へ移行」等の実施を10年12月7日に閣議決定した馬渕大臣は12月24日、当然のように機構の家賃値上げを容認した。しかし、年があけ1月25日の国会集会をヤマ場にした自治協の波状的な要請行動、各党議員の国会質問をうけて大畠新大臣の自治協役員との会見、機構への再要請となった。機構は大臣要請にこたえ、準備した値上げ通知発送を中断し、「措置」内容の再検討をせまられた。
 値上げ分の一時的免除という「負担軽減措置」が、「2011年4月実施」の実績づくりのための姑息な手法であるにしても、自治協運動と国会勢力等の支援なしには実現しえず、機構がよぎなくされた事実上の値上げ延期であることは明らかである。

『検証 公団居住60年』 東信堂

 

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