エラワン哀歌 №23 [文芸美術の森]
ネクタイ
詩人 志田道子
金ストライプに三頭の獅子
インド海軍の濃紺のネクタイは
その夜
男の首から外され
出会ったばかりの女の指に委ねられた
旗艦を挟んで艦船四隻
みな船首を沖に向け
縦列して岸壁に横付けていた
埠頭に打ち寄せる波に乗って 横腹を
濡れたコンクリートに擦りつけては
低い悲鳴を残して
また離れる
漆黒の海
波間に揺らぐ 無数の
鈍い光 満天の星も
金色に泣いて
ただ男の陶酔を見つめ続ける
パチンッ と
女のバッグの留め金が鳴った
濃紺の闇に
無造作にしまい込まれたネクタイは
眠り込む
その夜……
寝息も立てず
『エラワン哀歌』 土曜美術出版社販売
『エラワン哀歌』 土曜美術出版社販売
2022-03-30 08:03
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