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日めくり汀女俳句 №102 [ことだま五七五]

十月三十日~十一月一日

   俳句  中村汀女・文  中村一枝

十月三十日
菊たわに仏間朝の灯惜しみなく
          『薔薇粧ふ』 菊=秋

 六十代の人なら、講談社の絵本は子供時代のなじみ深い一冊だろう。忠君愛国の先兵のような役割もしたけれど、同時に、当時の子供たちに様々の夢を与えてくれた。どちらかと言えば熱血胸躍る痛快な男の子向けの読み物が多かった気がするが、なかで私が好きだったのは「孝女白菊」。内容は忘れてしまったが、多分落合直文の原詩を土台に、子供向けに書いたものだったのでは。「孝女白菊」の舞台が、熊本の阿蘇だということに気がつ
いて、頭の中に阿蘇の山々を背景にした絵本の絵柄が、ぼんやり思い出されてくる。

十月三十一日
ほつほつと木犀(もくせい)の香に降って来し
          『汀女句集』 木犀=秋

 半袖の木綿のTシャツでも寒くない変な十月だった。暖房はいらず、汗ばむ陽気、東京ではようやく少し木の葉が色変わりした程度。
 年々季節の境目がはっきりしなくなる。そのせいで、服の入れ替えも遅れがち。年間を通して着られるものについ手が出る。季節ごとのクリーニング、入れ替えを今年からやめてみた。もっとも気温のせいもあったが。楽である。気忙しくない。心のありどころを少しばかり移してみるだけで、見える景色が違う。汀女は俳句を作ることで、縮んでいた心を広げようとしたのでは、と思う。

十一月一日
葡萄(ぶどう)甘くして山冷の俄(にわ)かさよ
         『薔薇粧ふ』 葡萄=秋 冷やか=秋

 メロンパンが流行っているという。私は思わず手を打ってしまった。メロンパンと甘食(あましょく)は私の好きなパンだ。メロンパンは大正の末頃からあるというが、このところ確かにあちこちのパン屋で力を入れて売り出した。品切れも時々ある。以前は店の隅っこに忘れられていたのに。中身にクリームやチョコ、あんを入れるのもあるが、私はプレーン一辺倒。まわりのさっくり感と中身の柔らかさ、甘さを押さえた風味、そしてなぜか心のぬくもりにつながってくる郷愁を秘めた味わい。そして、安い。言うことなしである。

【日めくり汀女俳句』 邑書林



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