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日めくり汀女俳句 №100 [ことだま五七五]

十月二十四日~十月二十六日

   俳句  中村汀女・文  中村一枝

十月二十四日
行秋(ゆくあき)の越(こし)の暮しを少し告ぐ
         『花影』 行く秋=秋

 「あっちこっち家ん中かけずり回って何も用が済まないのよ、いやんなっちゃう」。知り合いの主婦がぼやいていた。
 家事はまさにそうなのだ。やればやるほどきりがなく、効果が際立って見えてこない。
テレビ等で効率のいい家事のこなし方をやっている。見ていると成る程と思い、深く頷(うなず))いてはみるが、いざやってみるとうまくいかない。人が来たり、電話が鳴ったり、突然用を思い出したり、家にいる限り、そこから逃れられない用向きの多さよ。それにしても、家事って何で、どうして女ばかりがするの?疑問である。

十月二十五日
山深く来ていよいよの秋日和
         『薔薇粧ふ』 秋日和=秋

 山の秋を見ていると、自然は何故にかくも美しき色合いを造型し得るのだろうと不思議に思う。
 同じ葉なのに色が日ごとに違う。一日たっただけで紅の三段切り替えみたいになるもみじ、白樺の黄葉が今年は今一つ。青空にすっくと立つ白樺の黄葉は、日が当たると黄金色に輝くのだ。それが今年は虫食い模様。ナナカマド、ハゼの実の鮮やかな赤、マユミのピンクの実は、一寸異色の色使いである。場所や気温、日射条件で葉の色ががぜん変化する
面白さ。自分も真っ黄色に染まりそうな思いで、山の秋を楽しむ。

十月二十六日
思ひさへ鳴く鈴虫にはばかられ
          『紅白梅』 鈴虫=秋

 昭和四十七年、一年遅れの金婚式が下北沢の家で行われた。ケーキを切る時に、汀女の手に手を添えて欲しいと頼むと、重喜が素直に応じてくれたのに一寸驚いた覚えがある。
垂喜と汀女の結婚生活が、波風のない穏やかそのものであったとは私には思えない。垂善は温厚な紳士の一面、強烈な肥後もっこす。屈折と頑固のかたまりでもあった。結婚しての汀女が涙を流したのもよく判る。火の女と肥後もっこす、強さにかけてはひけをとらない。喧嘩ははげしいものだったらしい。そしていつも熊本弁だった。

『日めくり汀女俳句』 邑書林


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