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行くも良い良い、行かぬも良い良い……句会物語 №104 [文芸美術の森]

行くも良い良い、行かぬも良い良い……句会物語
こふみ会通信 №104 (コロナ禍による在宅句会 その19)
「斑雪(はだれゆき)」「椿」「飯蛸」「フォト」
                俳句・こふみ会同人・コピーライター  多比羅 孝

虚視氏と下戸氏との連名にて、≪令和4年2月の句会≫の案内が全会員に届きました。下記のとおりです。

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こふみ会も、ネット開催が3年目を迎えようとしています。
ネット句会のスタイルが、皆さん板についてきたのではないでしょうか。
2月4日は立春、春の始まりであり、1年の始まりとされる日です。 
自分らしい句を詠んで、新しい春をスタートしましょう。

● 兼題【斑雪(はだれゆき)】【椿】【飯蛸】
 虚視からの特別兼題【添付写真から作句】 

2月案内 のコピー.jpg
(課題写真)
 
 添付した写真を鑑賞し、その印象から自由に作句する。
  *春の季語を入れる。

● 上記兼題4句を2月12(土)〜14日(月)に投句して下さい(厳守)

◆ 選句締切は2月21日(月)。虚視と下戸にメールをお願いします。    

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【上載の通知によって作成・作句された今回の全作品】は下記のとおり。14名 56句

【斑雪(はだれゆき)】
斑雪踏みつぶさんとひらり飛ぶ(小文)       
振り返らぬ人のかなしき斑雪(玲滴)      
人知れず山陰に消ゆ斑雪(鬼禿)        
斑雪何か新芽もふたつみつ(一遅)       
斑雪野を駆けぬける赤きスニーカー(弥生)
土塊の匂い久しく斑雪(下戸)         
斑雪明日の朝までもたぬ夢(茘子)       
またひとり友消え行くや斑雪(虚視)      
斑雪 親子ネズミの 足の跡(紅螺)       
峰に残り 谷に積もれる 斑雪(孝多)
庭斑雪子らの達磨に足らぬべし(尚哉)
君とゐたプラットホームはだれ雪(すかんぽ)  
斑雪隠しきれない嘘溶ける(矢太)       
斑雪あり 過去みたいだねと 君が言い(兎子)  

【椿】 
モノクロームの沈黙断って椿落つ(矢太)    
椿落つ林檎が地球に惚れたよに(尚哉)
椿手に 夜勤の明けた 消防士(紅螺)     
永遠は何処にありや落椿(下戸) 
鞄から椿手練れのデザイナー(すかんぽ) 
風の日もなんのスクッと寒椿(一遅)     
落ちて朽ち果つる椿の下の春(鬼禿)      
苔の庭すこし沈ませ椿落つ(虚視)       
人知れず 落ちて静けき 椿かな(孝多)       
毛利廟所の椿の紅のただならず(弥生)     
侘助に大樋(おおひ)の里の楽茶碗(玲滴)   
氷上に 軌跡残して 椿落つ(兎子)
胸を張りここで生きると落椿(小文)      
椿落つ地面を穿つ朱の波紋(茘子)       

【飯蛸(いいだこ)】
高砂の飯蛸を言ふ母恋し(弥生)      
悲しみを 抱え悶える 飯蛸の夜(兎子)
飯蛸に 箸割る音も 嬉しけり(孝多)    
飯蛸や謎の多いやつだった(矢太)
イイダコにピース喫はせて宇宙人(鬼禿)   
飯蛸に光る瀬戸波甦る(玲滴)        
茹でたての飯蛸ひょいとつまみ食ふ(小文)  
飯蛸の干されて更に小さくなり(虚視)    
金継ぎの 器に飯蛸 燗の酒(紅螺)      
飯蛸やこの星狭くなつてきし(すかんぽ)  
悪党や飯蛸のあし玩ぶ(下戸)        
飯蛸の飯呑み込まん茶碗酒(尚哉)      
海のたり飯蛸笑う太公望(茘子)
飯蛸の飯ほどぎっしり悔いのあり(一遅)  

【フォト】
影ちぢむ春の歩幅はモデラート(茘子)    
光より影に惹かれし枯日向(下戸)     
きょう立春 おっ影も立とる(鬼禿)
永き日やあと5分だけ待ってみる(小文)  
人気なき夜の静寂に春を待つ(玲滴)    
事件ありベイカーストリート春の夜(一遅)  
春の闇後ろに迫るはチビ太だな(尚哉)
初出社 街の道々 目新し(紅螺)      
迷い道 遍路に出ようか 風が吹く(兎子)
春立ちぬ一方通行行止まり(矢太)     
萌えていた 若草の原 今いずこ(孝多)
この街も焼野となりし日もありき(虚視)   
朧夜の彷徨影は魔物めく(弥生)       
春雷や濡れて馬車道待ちぼうけ(すかんぽ)  

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【天句の鑑賞】
「天」に選んだ句とそれに関する鑑賞短文を簡潔に書くというこふみ句会の約束事。

●君とゐたプラットホームはだれ雪(すかんぽ)
鑑賞短文=作者は兼題の表記を平仮名に変えました。さらに旧仮名づかいです。おっと、と思えば「君」も片仮名(キミ)ではなくて、漢字ひと文字。さらに5.7.5も一字アキではありません。一字アキだったらどんな感じになったでしょう。いろいろと考えさせられる良句です。拝読して、しばらく私は目を閉じていました。佳句をご提示いただき、有難うございました。(孝多)

●苔の庭すこし沈ませ椿落つ(虚視)
鑑賞短文=齣落としの映像を見るような、凝縮した時間を、瞬間の移ろいを視覚化したような句だと思います  (紅螺)
鑑賞短文=・・・・ゆっくり送る録画を観るような、美しい句です。弱い雨が降っているのかも知れない。(尚哉)

●土塊の匂い久しく斑雪(下戸)
鑑賞短文=「この冬は寒かったです。春を感じる土の匂いが待ち遠しいです。(小文)
鑑賞短文=春になると、地面が潤って、土の匂いが立ち上ってきます。冬の終わりを告げる斑雪から、土の香りを嗅ぎとる、繊細な感覚に脱帽。(茘子)
鑑賞短文=斑雪のくで春の匂いを描いたの小目だけ。素晴しい(鬼禿)
鑑賞短文=湿り気を帯びた空気と共に、春はたくさんの匂いを連れてやってくる。群を抜いて見事な一句でした。(虚視)

●飯蛸に光る瀬戸波甦る(玲滴)
鑑賞短文=幼い頃瀬戸内沿岸の町で暮らしたことのある私は飯蛸と聞くと穏やかな海と父母を思い出します。私の思いそのままの句です。(弥生)

●永き日やあと5分だけ待ってみる(小文)
鑑賞短文=待ち合わせの、ほのかな暖かさが、写景と一緒にの立ち上ってくる。(矢太)

●朧夜の彷徨影は魔物めく(弥生)
鑑賞短文=写真の怪しげな光と影を、見事に言葉に置き換えた。愉しい春のミステリー。(一遅)

●斑雪明日の朝までもたぬ夢(茘子)
鑑賞短文=この儚さ、おぼろさ。追いかけても消えていく虚しさ。
それでいて美しいとも感じました。(兎子)

●モノクロームの沈黙断って椿落つ(矢太)
鑑賞短文=音の世界に色があるとしたら、沈黙は確かにモノクロだと思いました。椿の赤と対をなして鮮やかです。(玲滴)

●飯蛸に 箸割る音も 嬉しけり(孝多)
鑑賞短文=まだ湯気の上がる飯蛸を、嬉しそうに箸でつまむ家族たちの情景が浮かんでくる。あの頃の食卓の楽しさがリアルに蘇ってくる。(下戸)

●春立ちぬ一方通行行止まり(矢太)
鑑賞短文=道路標識の影の存在感を、非常にうまくドラマに仕立て上げた句ですね。濡れた路面も「春立つ」の季語がぴったりです。(すかんぽ)

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≪成績発表・今月の天地人≫

【天】 下戸   37点
        代表句=土塊の匂い久しく椿落つ
【地】 矢太   33点
        代表句=モノクロームの沈黙破って椿落つ
【人】 虚視   32点
        代表句=苔の庭すこし沈ませ椿落つ
【次点】 すかんぽ 27点
    代表句=君とゐたプラットホームへはだれ雪

◆上位作の皆さん、おめでとうございました。「リアル」でしたら、拍手・パチパチパチッというところでしょう。

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≪幹事より、ひと言≫

ジャズ喫茶を見なくなって久しい。
ましてやタンゴ喫茶などとっくに消滅しているだろうと思っていたら、神田神保町の細い路地の奥に、五十年以上前の姿のままに残っていたのには驚いた。タンゴ喫茶ミロンガがそれだ。すぐ近くにラドリオと言う喫茶店も数年前までは昔のままだったが、今は名前はそのままで改装中。ちなみに、今回の写真兼題は、神田駿河台の坂の途中で撮ったもの。(虚視)

何度目かの幹事になります。
幹事をさせていただくことは、私にとって学びです。今回ご一緒させていただいた虚視さんの振舞い、考え方にハッとさせられました。これまで幹事でご一緒させていただいた方にも、毎回多くを学ばせていただきました。そして俳句を通じて、皆さまの人となりと作品に触れることができるのは、とても貴重なこと。 下戸が「天句」と出会えたのは、皆さまのおかげです。(下戸)
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≪芥川龍之介を読んでいたら≫

私・孝多はすっかり嬉しくなりました。
こうして磨かれて行ったのですね、彼・独特のセンスと技巧は。と、十分に納得できたのです。
読んだのは岩波文庫『芥川龍之介俳句集』です。先ずは、下載の6句をご紹介いたします。
あなたのご感想、如何でしょうか。
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雪解けに葉を垂らしたる八つ手かな
雪どけに葉を垂らしたり大八ツ手
雪どけの葉を垂らしたり大八つ手

雨吹くやうすうす燒くる山のなり
雨吹くやうすうす燃ゆる山のなり
雨ふるやうすうす燒くる山のなり
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ところで『自嘲』水涕や鼻の先だけ暮れ残る(芥川龍之介)はよく知られていますね。
コロナ禍も、やすやすとは収まらず、まだまだ、「在宅句会」が続きそうです。
「暮れ残る」です。
それでは、皆さん、どうぞ、ご自愛のほどを。心と体をお大事に。では、また。  不一
          令和4年2月末日
                                          多比羅 孝

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