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エラワン哀歌 №18 [文芸美術の森]


      詩人  志田道子

  宮津湾から天橋立を経て
  内海に流れ入る潮は音もなく
  流れる ただ流れる
  無数の細かい波頭をキラキラ輝かせて
  灰色の空の下いっぱいに 流れる
  湾(阿蘇海)の懐深く

  ふと かいつぶりが一羽
  視界の隅に首をもたげ 消えた
  掌(たなごころ)でぬくもる携帯は
  想像でしか知らない異国の少女が
  異形の思いの犠牲となり 何も知らされぬまま
  爆薬を衣に纏わされ 熱く果てたと伝える 
  なぜ
  泣くのか? その少女が
  母親の懐のぬくもりと夕餉の満腹を
  夢見ていただけと想像しただけで
  なぜ
  泣くのか? 少女の屍を四方に散らした若い男が
  四散した自分の
  自尊の心を拾い集めたかっただけと
  思いめぐらしてみただけのことで 

  天橋立の松並木
  せめて 歩いて渡ってみようか
  外海から流れ寄せた白い砂に
  白いカモメが群れて仔む霧雨の下
  はるかに望むあちら側にも
  岸辺というもののあるところまで

『エラワン哀歌」 土曜美術社出版販売


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