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エラワン哀歌 №10 [文芸美術の森]

白ねずみの夢想

         詩人  志田道子

  手垢のついた午後三時に
  雨音はますます高くなり
  残雪を融かす

  わたしは
  実験室の棚の上で
  午睡(ひるね)の床の暖かさに
  眉間に級を寄せて
  目を覚ました
  肩が「疲れた」と
  口癖を繰り返すと
  まだまだ生きていたいと
  下腹が泣いた
  それを聞いた心臓が
  ひとつ
  甘酸っぱい鼓動で応える

  幾億年かけて
  やっと
  寄せ集められた わたしが
  いま
  雨とともに
  分解しようとしている

  細胞のひとつひとつが
  ばらばらになって
  右へ/ 左へ/ 上へ/ 下へ
  泥まみれの雪をはねかえした
  水しぶきで
  いっぱいの
  厳寒の
  時というものを知らない
  闇のなかへ

『エラワン哀歌』 土曜美術出版販売

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