エラワン哀歌 №10 [文芸美術の森]
白ねずみの夢想
詩人 志田道子
手垢のついた午後三時に
雨音はますます高くなり
残雪を融かす
わたしは
実験室の棚の上で
午睡(ひるね)の床の暖かさに
眉間に級を寄せて
目を覚ました
肩が「疲れた」と
口癖を繰り返すと
まだまだ生きていたいと
下腹が泣いた
それを聞いた心臓が
ひとつ
甘酸っぱい鼓動で応える
幾億年かけて
やっと
寄せ集められた わたしが
いま
雨とともに
分解しようとしている
細胞のひとつひとつが
ばらばらになって
右へ/ 左へ/ 上へ/ 下へ
泥まみれの雪をはねかえした
水しぶきで
いっぱいの
厳寒の
時というものを知らない
闇のなかへ
『エラワン哀歌』 土曜美術出版販売
『エラワン哀歌』 土曜美術出版販売
2021-09-14 08:48
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