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日めくり汀女俳句 №87 [ことだま五七五]

九月十二日~九月十四日

    俳句  中村汀女・文  中村一枝

九月十二日
行くほどに長城しかと秋日満つ
        『紅白梅』 秋の日=秋

 汀女が、国交回復前の中国に出かけたのは昭和三十一年九月。文化訪問団の副団長格であった。十月一日の国慶節で「早朝楽起り人声町中に満つれども生憎の雨なり。天安門楼上雨中軍隊の行進を迎ふる毛沢東主席その他もうちけぶる程の大雨なり」とメモしている。着物姿の汀女は、どこへ行っても人だかりに囲まれた。終始下駄で通し、ホテルの中ではロビーのボーイに下駄を預けた。万里の長城も下駄で上ったが、下りる時はさすがに怖く足袋はだしだった。周恩来首相は、汀女と握手したままなかなかその手を離さなかったそうだ。

九月十三日
秋暑く足長蜂に澄む日かな
         『紅白梅』 秋暑し=秋

 戦争体験がまったくないわが息子と、日本のあり方をめぐり議論になった。私はやっぱりバリバリの非戦派。女性にはこの手が多いと思う。子供の時の見聞や経験から、もう二度と戦争はイヤだと思っている。もし外敵に襲われたら丸腰で降伏するの? 息子(本人は三十三歳)は、現代の享楽消費に明け暮れている若者たちを見ていると、何か間違っていると思うらしい。でも、愚かな指導者によって間違った方向に引っ張られていった過去を思うと、一足とびにはいかない民主主義の稚拙・愚鈍さも、貴重なものに思えるのだ。

九月十四日
夜の蝉の起ししかろきしじまかな
          『春雪』 蝉=夏

 生徒たちの学校崩壊へのひどさに意を決した広島の中学の校長先生が、学校内を全面公開に踏み切ったというニュース。私が子供の学校に関わっていたのは、もう十五年も前だが、その頃感じていた学校の閉鎖的体質は何も変わっていない。世の中はずい分変化したのに学校の事件が起きて見えてくるのは、旧態依然たる学校の顔である。
 息子の高校受験の時、学校を探していくつもの高校を歩き回った。なかにはこれは、と思う所も二、三あったが、その中で私の夢を少しでも満たしてくれそうな学校が一校あった。

『日めくり汀女俳句』 邑書林


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