SSブログ

往きは良い良い、帰りは……物語 №96 [文芸美術の森]

往きは良い良い、帰りは……物語
こふみ会通信 №96 (コロナ禍による在宅句会 その11)
「夏服」「青芒」「父の日」「短夜」
                俳句・こふみ会同人・コピーライター  多比羅 孝

当番幹事(虚視氏&華松さん)から連名で、下記のような≪令和3年6月の句会≫の案内が届きました。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 
豪雨襲来の予報もあり、どんよりとした空模様ですが、句会は夏。
兼題
   夏服
 青芒
 父の日
 短夜、明易し、でも可
●兼題作品を投句する締め切りは6月13日です。
その後、16日までに投句作品一覧をお届けし、選句締め切りをは23日と致します。
●「天句鑑賞短文」をお忘れ無く。
●選句一覧の発表は、四日後を目指します。
●投句等々は幹事両名(虚視・華松)にお送り下さい。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 
【上載の通知によって作成・投句された今回の全作品】は下記のとおり  17名  68句

≪父の日≫
父の日は所在なさげな父演ず (尚哉) 
父の日の古きアルバム若き父  (舞蹴) 
しらじらと 見舞いの花が 父の日に (兎子) 
父の日に 詫びたい背中 空仰ぐ (茘子) 
父の日のあたりに添ひし命日や (華松)
父の日や息子との距離遠いまま (虚視)  
父の日の父は朝から釣堀へ (可不可) 
父の日や耳に残るは淡路弁 (弥生) 
父の日や 笑ってあげる 父のギャグ (孝多)
父の日や子どもは親を選べない (鬼禿) 
父の日や写真の中の父笑ふ (小文) 
贈りたき人のいぬ身や父の日に (玲滴)
父の日の主役は婿に番茶吸ふ (すかんぽ)
汗臭きジャケット脱がす父の日に  (下戸)
父の日やどのクレヨンも丸くなる (矢太) 
父の日か悔い多きことのよみがえり (一遅)   
父の日に 父なきを思う 父の椅子 (紅螺) 

≪夏服≫
会えぬまゝ旅発つ良人の 夏服 (鬼禿) 
夏服にバッヂ移すや古希近き (尚哉) 
夏服の産毛輝くテニスの子 (一遅) 
麻の服着て懐かしき昭和かな (可不可) 
すれ違う黄色い夏服マンハッタン (舞蹴)  
真新し夏服はしゃぐ電車かな (華松) 
夏服の海軍中尉の父帰る (矢太) 
3センチほどいて母の夏の服 (下戸)  
夏服の我肌少し気恥づかし (小文)  
夏服をふわり羽織って揚羽蝶 (茘子) 
麻服のこなれて白き不精髭 (すかんぽ)  
夏服や 軽く羽織って 逢いに行く (孝多)
夏服の袖にかすかに去年(こぞ)のしみ (弥生) 
丸一年 箪笥に眠れる 夏服よ (兎子)
校庭に夏服揃い声高し (玲滴) 
夏服の 袖から少女の 力こぶ (紅螺) 
海軍の夏服遺影兄二十歳(はたち) (虚視) 

≪青芒≫
十年(ととせ)たち被曝の村に青芒 (弥生) 
跳ね返す若さ嵐の青芒 (すかんぽ) 
一陣の風吹きわたり青芒 (玲滴) 
これ見よがしに青芒茂れる隣家かな (矢太)
ふるさとの目抜き通りに青芒  (下戸) 
風の筋走る子どもの青芒 (小文)  
烈日下刃(やいば)を秘めし青芒 (虚視) 
風びゅんびゅんびゅんびゅんと吹け青芒 (可不可) 
青芒おまえも痛かろ子らが跳ね (華松) 
青芒老旅人に容赦なく (一遅) 
青芒女が帯を解くごとく (舞蹴) 
青芒に入る 山頭火の碧天(あおぞら) (鬼禿) 
蒼茫か 生家のあとに 草揺れる (兎子)
枯るまじと河原に誓う青芒 (尚哉)
青芒 ぐんぐんのびる温度計 (茘子) 
我が名呼ぶ キミの声あり 青すすき (孝多) 
巢づくりの 小鳥隠して 青芒 (紅螺)                                      

≪短夜≫
短夜の夢の花火は 明けの星 (茘子) 
愉しみや味わい欠けし短夜かな (華松)
短夜の極みはサンクト=ペテルブルク哉 (鬼禿)
月低く バルトの旅は明け易し (紅螺) 
短夜や地軸が捻じれているんだよ (矢太)
短夜や 逆転勝利の 夢見てる (孝多)  
短夜のまどろみにふと遠い恋 (一遅) 
短夜や東雲色の星ひとつ  (小文)   
短夜や未だ足跡無き渚 (虚視) 
ケータイの電池百%明易し (すかんぽ)
短夜や我は早起き地球一 (尚哉) 
短夜やヘルメット重し灯り消す  (下戸)
短夜の夢をよぎるは帰らぬ日 (弥生)
短夜の遠くて近き波の音 (可不可) 
短夜を長きと思うひとり旅 (舞蹴) 
短夜やストレッチャーに夫(つま)横たわり (玲滴)  
胸のおく 夢も残らぬ 短夜に (兎子)  

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 
【天句の鑑賞】
「天」に選んだ句とそれに関する鑑賞短文を簡潔に書くという約束事。

●我が名呼ぶキミの声あり青すすき 孝多作
★鑑賞短文=広大な原の景が浮かぶ爽やかな初夏の句だと思います。(紅螺)

●十年(ととせ)たち被曝の村に青芒  弥生作
★鑑賞短文=意に反して『父の日』の句が個々いい句でした。だだ襟首を捕まえられる程の句が無かったのも事実です。そんな中 鬼は 今を改めて問いただす この句を天に選びました。「ボケーと生きてんじゃあね~よ」と言われたような~。(鬼禿)
★鑑賞短文=東日本大震災のあと、村の避難解除がまだされないときに現地を訪ねて、枯れすすきのおおう田を見た記憶がよみがえりました。一筋の青が希望と未来を予感させるようです。(玲滴)

●烈日下刃を秘めし青芒 虚視作
★鑑賞短文=私も芒の葉で手を切ったことが何度かあります。烈日のもと青々と繁る芒は鋭い刃を隠し持っているんですね。切り口の美しい句。(弥生)

●夏服の袖から少女の力こぶ 紅螺作
★鑑賞短文=・・・白い提灯袖、手足の長いすらりとした少女・・・。遠い日の記憶なのか、やるせない懐かしさを覚えます。(尚哉)
★鑑賞短文=「力こぶ」に参りました! (可不可)

●夏服の産毛輝くテニスの子 一遅作
★鑑賞短文=夏服と産毛。この爽やかな組み合わせに参った!キラキラ産毛が光る「テニスの子」が目に浮かぶ。 (舞蹴)
★鑑賞短文=汗と光線で輝く産毛、産毛が美しいことに気付かせていただきました。(華松)

●3センチほどいて母の夏の服 下戸作
★鑑賞短文=形容詞を使わずに、亡き母への万感の思いがふとした仕草の中に見えて見事です。(一遅)

●父の日の古きアルバム若き父 舞蹴作
★鑑賞短文=父の日に、古いアルバムをめくる。心の奥にストンと落ちてくる句です。(下戸)

●短夜や未だ足跡なき渚 虚視作
★鑑賞短文=素晴らしい着眼点です。短い夜はもう四時にはうっすらと明けて、浜辺に佇む作者、そして波の音が聞こえてきそうです。(茘子)

●風びゅんびゅんびゅんびゅんと吹け青芒 可不可作
★鑑賞短文=この勢い、鬱屈した日々に風穴を開けてくださいました。(兎子)

●すれ違う黄色い夏服マンハッタン 舞蹴作
★鑑賞短文=黄色!マンハッタン!都会のキレキレ感が目に浮かぶようで元気が出ます。 (小文)

●父の日の父は朝から釣堀へ 可不可作
★鑑賞短文=このお父さん、悟っていますね。父の日の悲哀を見事に、しかもさらりと詠んでいます。(すかんぽ)

●父の日に父なきを思う父の椅子 紅螺作
★鑑賞短文=父・父・父と、大胆な文形にまとめたところに、新しさを追求する作者の姿勢が浮き彫りにされています。良い句をお示し頂き、有難うございました。(孝多)

●風の筋走る子どもの青芒 小文作
★鑑賞短文=巨大な蛇の様な緑のうねりが、走る子供たちを覆い尽くす光景が眼前に展開するようだ。「風の筋」が良い。(虚視)

●父の日や子供は父を選べない 鬼禿作
★鑑賞短文=自分の父のことを思う。同時に自分自身に思いが至る。切ないです。(矢太)

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 
【幹事より、ひと言】
投句が近づき張り詰めた沈黙と、選句発表の喧騒と笑い声の「こふみ句会」。コロナ渦、おずおずといった感じで始まったネット上の「こあみ句会」。みんなの声の飛び交う楽しさは無いが、ネット句会では、じっくり句を味わい、天句感想を読み、誰がどんな句を選んだか等、これもじっくりと味わい、何度も見返したり出来る。みんなと会う楽しさは減ってしまったが、その代わりに句と向き合う時間は増えたような気がする。 (虚視)

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 
【今月の成績一覧】
◆トータルの天=紅螺・51点
代表句=夏服の袖から少女の力こぶ
◆トータルの地=可不可・41点
代表句=風びゅんびゅんびゅんびゅんと吹け青芒 
◆トータルの人=虚視・39点
代表句=短夜や未だ足跡なき渚
◆トータルの次点=弥生・36点
代表句=十年(ととせ)たち被曝の村に青芒

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 
皆さん、おめでとうございます。
コロナ禍の中で開かれた今回の在宅句会にても、ピカピカ光っている句があります。表彰ものの句です。私たちはコロナに負けていませんでした。
3Mのため、ひざを交えることができなくても、飲食物のいい匂いがかげなくても、心の通いは保たれ、結びつきは強まり、句は磨かれて行くようです。
「こふみ会」をもじって「こあみ会」と呼ぶ人々も出て来ました。ネット(網)オンラインだからでしょう。
句会にとって、いつも必須なのは新鮮な空気です。禍い転じて福となしましょう。皆さん、どうぞ、お元気に。    令和3年6月末日  多比羅孝多
(追伸=「幹事より、ひと言」のコラムにも同様のことが書かれています。)
                                                       

nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。