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草木塔 №91 [ことだま五七五]

旅心 7

     俳人  種田山頭火

  温柔郷裏の井子居
きぬぎぬの金魚が死んで浮いてゐる

   華山山麓の友に
やうやくたづねあててかなかな

 孤寒といふ語は私としても好ましいとは思はないが、私はその語が表現する限界を彷徨してゐる。私は早くさういふ句境から抜け出したい。この関頭を透過しなければ、私の句作は無礙自在であり得ない。
(孤高といふやうな言葉は多くの場合に於て夜郎自大のシノニムに過ぎない。)

 私の祖母はずゐぶん長生したが、長生したがためにかへつて没落転々の憂目を見た。祖母はいつも『業(ごふ)やれ業やれ』と呟いてゐた。私もこのごろになつて、句作するとき(恥かしいことには酒を飲むときも同様に)『業(ごふ)だな業だな』と考へるやうになつた。祖母の業やれは悲しいあきらめであつたが、私の業だなは寂しい自覚である。私はその業を甘受してゐる。むしろその業を悦楽してゐる。

『草木塔』青空文庫




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