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日めくり汀女俳句 №82 [ことだま五七五]

八月二十八日~八月三十日

   俳句  墓村汀女・文  中村一枝

八月二十八日
裁ち鋏月をよそなる切れ味に
          『汀女句集』 月=秋

 私と四十年以上のつき合いのある小森れい子さんは熊本の人。父上の小森猛と私の父尾
崎士郎は古い友人。その猛の大伯父に当たるのが、実は佐久間象山を暗殺した肥後藩士、
河上彦斎だという話を聞いた。
 彦斎はもともと小森家の子息だが、幼時河上家に養子に行った。彦斎の姉はずっと生き
ていて、猛は彦斎の話をいろいろ聞いたそうだ。彦斎は人斬り専門かと思ったが、尊王接
夷を奉じ断じて節を曲げなかった。人斬りの異名を持つのは、大変な剣の使い手で何人も
人を斬ったせいだ。恩わぬ所に人斬りの子孫がいた。

八月二十九日
子に達しとは思はねど青胡桃(くるみ)
             『紅白梅』 青描桃=夏

 パラサイトシングルという言葉をよく耳にする。結婚せずに実家に居候する息子や娘。
「あら、お宅も。家も息子がまだ。困っちゃう。」
 言葉ほどには深刻でない会話をよく聞く。年をとる一方の親にとって、壮年の息子や娘
が一つ家にいるのは何かと心強い。肉親だけの快適さ、老夫婦が取り残される図を考える
と、このぬくもりはかけがえがない。
 若者も、屋根と、食を無料で確保してもらえる便利さから抜け出せない。両方が利益を
共有し合っているのなら問題がない? いや、やっぱり親も子も未成熟な社会現象だ。

八月三十目
釘打って今日はあそぶ子秋風に
               『春雪』 秋風=秋

 りゆう君は一年生、虫や蝶の大好きな子。夏休み、祖父の別荘へ遊びにきていた。ある
日、りゆう君はお母さんたちと森へ遊びに出かけた。そこで叔母さんに買ってもらい、チ
ャビと名付けた小さな犬の縫いぐるみを落としてしまった。大人たちも必死に草の中を探
したが見つからない。この辺り、鹿のよく出る幻想的な森。お母さんが言った。
「りゆうちゃん、チャビはね、鹿さんの所に行きたくなったんだよ。この森が気に入った
んだよ。チャビを森へ帰してあげようよ」。
 私にはすっかり遠くなった口がふと蘇ってきた。

『日めくり汀女俳句』 邑書林


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