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日めくり汀女俳句 №80 [ことだま五七五]

八月二十二日~八月二十四日

    俳句  中村汀女・文  中村一枝

八月二十二日
稲妻のゆたかなる夜も寝べきころ
           『春雪』 稲妻=秋

 昭和二十二、三年頃の話だろうか。汀女と、作家大谷藤子が、下北沢の路上でつかみかからんばかりの喧嘩をしていたというのを読んだことがある。富本一枝をめぐっての女の戦いという風に書かれていた。汀女が女の人、それも綺麗な人、才能のある人を好きだったことは間違いない。大腸がんの手術を執刀した女医さん宛ての手紙など、感謝と綿々たる愛情があふれていた。だからといって同性愛の傾向があったとは言い切れない。汀女のそれはいかにも熊本的、直情径行、おどろおどろしさがまったくない。

八月二十三日
休暇はや白朝顔に雨斜め
         『春雪』 朝顔=秋

 今年の夏はまさに猛暑だった。今日二十三日は処暑、そうこうしているうちに暑さもしのぎやすくなるということか。
 八ヶ岳と東京との間を時折往復した。新宿駅に降り立った瞬間、暑いよりも何ともいえない空気のよどみが鼻をついた。私はいつもこんな空気を吸っていたのか。
 熊本の夏は暑いというが、空気は清澄。暑さの質が違うだろう。空気と水。人間が生きるのに、一番必要なのに一番なおざりにされている。都会の人間の肺は真っ黒だろうというのは実感である。そこに生きている人の多いこと。

八月二十四日
来し方に人現はれぬ丘の秋
          『汀女句集』 秋=秋

 二十日を過ぎると、別荘地は急に閑散とし てくる。子供の自転車が軒下に放り出され、虫とりの龍が転がっていて夏の日は、はや過ぎたことを思わせる。私はこの土地が好きで半分永住したいくらいで家を持ったが、大方の人は夏の一時の避難場所としてやってくる。
 広壮な大きい家を建てた人ほど建てた年はにぎにぎしく車があふれ、人のさざめきも聞こえるが、二年、三年たつうちに、ほとんどこなくなる。
 セカンドハウスブームという。上っ面の風に乗って家を建てた者はまた、風の如く去る。

[『日めくり汀女俳句』 邑書林

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