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検証 公団居住60年 №68 [雑木林の四季]

第三章 中曽根民活
 Ⅶ 住宅政策大転換のはじまり一都市基盤整備公団へ再編

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

4.住都公団廃止の閣議決定と賃貸住宅政策へのいっせい攻撃

 橋本内閣は1997年6月6日に「特殊法人等の整理合理化について」閣決定をおこない、11法人の廃止・民営化をきめた。住都公団については、つぎのとおり。
 平成11(1999)年の通常国会において法律改正をおこない、廃止する。
 都市開発・再開発業務(政策的に特に必要とされる賃貸住宅業務をふくむ)については、 新たに設立する法人に移管する。現在の賃貸住宅の管理業務も新法人に引き継ぐことを 予定する。
 分譲住宅業務からは、適切な経過措置を講じたうえ、撤退する。
 橋本行革にたいする公団トップの対応は、94年の村山行革のときと明らかにちがっていた。公団総裁は95年6月に豊蔵一から牧野徹にかわった(牧野は2001年1月に総裁退任、小泉純一郎内閣の首相補佐官に任命され、都市再生を担当した)。橋本行革を先取りし積極的にこれに加担し推進した点で大きな変化をみせた。3年前には「住宅政策における公団の役割」を第一にかかげた文書をつくって政界工作をくりひろげ、「民営化」に抵抗をみせてい。しかし今回は、政府方針の国会表明の直前に公団総裁が「改革」の筋書きを示したことからも分かるように、すすんで住都公団廃止の道をえらんだ。
 公団はその筋書きを、公団基本問題懇談会の名で97年4月30日に「転換期を迎えた住宅・都市整備公団のあり方について」(提言)として発表した。そのねらいは明白である。①業務の重点を住宅供給から都市再開発に移す、②既存賃貸住宅は「当分の間」新法人がひきつぎ、新法人移行にあたっては市場家賃化、建て替えの法定化と推進、団地管理の外部化をかかげ、将来の完全民営化を示唆する。③大資本に奉仕、利権構造温存の道をしめす。住宅市場からは退場して、基盤整備で民間事業を支える。虫食い土地など不良資産を公的資金で買い上げ銀行やゼネコンを救済する。官僚的経営体質と公団をめぐる利権構造にメスを入れさせず、天下り先を確保しての延命をはかる。④国民居住への公共責任からの撤退を方向づける。
 橋本「火だるま行革」は、住宅政策のうえでは住都公団の廃止にとどまらず、ひろく公共賃貸住宅政策および借家制度のあり方に変化をせまった。97年6月3日の「財政構造改革の推進について」につづき、6日に住都公団の廃止等が閣議決定されると、これをうけて住宅宅地審議会住宅部会は13日に急きょ基本問題小委員会をひらき「新たな賃貸住宅政策のあり方」の検討をおこない、法務省民事局は同日「借家制度等に関する論点」を公表した。
 住宅審は95年6月に答申「21世紀に向けた住宅政策の基本的体系について」を出し、それにもとづいて96年度にはじまる第7期住宅建設5カ年計画が策定された。ところが97年に住都公団の廃止が決まり、住宅審は公営・公団住宅を中心に策定済みの5カ年計画の変更をよぎなくされた。同基本問題小委員会は98年1月に「今後の賃貸住宅政策の方向について(中間とりまとめ)」を報告した。「近年、行財政改革、規制緩和など住宅政策をとりまく状況は大きく変化している」との書き出しは、公的賃貸住宅の直接供給からの撤退をはかる「行財政改革」と、定期借家制導入や建築確認・検査の民間開放などの「規制緩和」を要求する政財界の圧力をものがたっている。
 この「中間とりまとめ」のねらいは2つ。第1は、政策の基本を自助努力と賃貸住宅市場の整備・活性化におき、定期借家制の活用で住み替えの円滑化、既存公営・公団ストックの建て替え推進等をはかる。第2は、住宅政策を経済政策、景気対策として位置づけ、それをいっそう明確にする。「賃貸住宅は、内需の柱である住宅建設の約4割を占めており、少子化にともない長期的に持ち家住宅への投資が減少していくなかで、持続的内需主導型の経済成長を実現するうえで大きな役割を果たしていくものと考えられる」と賃貸住宅政策を性格づける。
 住宅審住宅部会による新たな賃貸住宅政策の提言に呼応し、法務省民事局が同日に公表した「借家制度等に関する論点」は、もちろん正当事由制度の緩和・廃止、定期借家制度創設を主旨とするものであった。全国自治協は、法務省の「論点」にたいしては97年9月30日、住宅審「中間とりまとめ」については98年3月6日に、わたしが執筆して意見書を提出した。住宅審事務局を担当する建設省住宅局住宅政策課は意見書の受理を当初かたくなに拒否した。意見書提出につづき、全国の団地自治会に手紙・はがき運動をよびかけ、約5万通もの居住者一人ひとりによる自筆の要請を建設大臣と住宅審会長にとどけた。住宅審への直接要請は自治協にとっても画期的な運動だったし、住宅審にとってはかつてないことであり、大きな驚きであったようだ。

『検証 公団居住60年』 東信堂


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