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往きは良い良い、帰りは……物語 №88 [文芸美術の森]

10月こふみ会通信

    10月こあみ句会幹事  梶浦すかんぽ/横幕玲滴

【こあみ句会十月のご案内】  2020年9月吉日・発信

皆さん、こんにちは。
いよいよ秋も本番。さまざまな句材と出会う素敵な季節になりました。
さて今月も、こあみ句会を開催させていただきます。
横幕、すかんぽ、幹事は不慣れですので広い心でよろしくお願いします。
兼題(今月も以下のお題を満たした4句の提出をお願いします)
①酢橘(すだち)(かぼす) ②秋の霜(秋霜:露霜:水霜) ③水澄む ④「歩」という文字を使用した句 ※「歩」は無季ですので各自で季語を。
天句1、地句1、人句1、客句5の計8句の選出をお願いします。
天句には、鑑賞コメントを簡潔に書いてください。
地句、人句、客句は、句の番号と上五をお書きください。
天句は5点、地句は3点、人句は2点、客句は1点で採点します。

【こあみ句会十月選句結果】
これより天句観賞 ※緑文字は天句選者
酢01  縁あってスダチを絞る白い指(一遅)
舞蹴評 まるで、安西水丸さんのイラストの世界。
酢橘の緑と、白い長い指が、妙に色っぽい。「縁あって」という言葉もとっても新鮮!
酢10  酢橘沁みたか  泣いており痩さんま(鬼禿)
珍椿評 季重なりが不自然さを感じない。さんまと酢橘が見事な句となっています。
酢17  思い出はほぼ苦し酢橘しぼる(下戸)
弥生評 苦い思い出を噛みしめつつ酢橘を搾るという行為のイメージと
破調がピッタリとあって、定型では出せない味わいだと思います。
霜02  いつの間に地球動くや秋の霜(尚哉)
可不可評 季節の移り変わりは素早い。特に最近は、秋がないという実感。
霜04  秋の霜濃茶茶碗は楽の黒(紅螺)
孝多評 濃茶は普通、廻し飲みするものですが、コロナの今は、ひとりで味わい、
しみじみと秋を感じている………そんな様子が、ありありと示されています。(妻と2人で選)
小文評 無骨な楽焼茶碗の黒色と濃厚な抹茶の緑色とのコントラストが鮮明に浮かび、温もりを感じます。
玲滴評 黒楽のたたずまいに季節の深まりと茶室の静謐な空気が感じられて好きです。
霜10  足跡に猫のためらい秋の霜(舞蹴)
下戸評 猫がいないのに、霜の上を猫が歩いている様子を想像してしまう。
文字で絵をイメージし、そのイメージの過去をイメージする。マトリョーシカみたいな味わい深い俳句ですね
霜11  銃声をたしかに聞いた秋の霜(矢太)
すかんぽ評 狩猟もそろそろ解禁の頃か。裏山に銃は鳴ったのだ。
非日常の、でも、ありうる日常を詠んで、季節の移ろいを見事に現している。
水07  水澄みぬ  プールに君がいるだけで(鬼禿)
華松評 水さえ消毒出来る、そういう方に巡り会いたいものです。
水08  水澄むも河底に一尾の影もなし(矢太)
兎子評 清冽で、淋しい。
あっけらかんとしているのに、なぜか悲劇を感じました。
水12  底の底水澄み闇の深まりて(虚視)
茘子評 水の底にある、秋の闇の深さ、寂しさを感覚で捉えて素晴らしい。
水17  くきやかな背びれの錫や水澄めり(小文)
尚哉評 「錫」が全体の中心。たいへん効いています。いかにも俳句らしい俳句。
歩04    ふたりにはふたりの歩調いちょう散る(すかんぽ)
虚視評 老夫婦なのだろうか、互いをいたわりながらの散歩。
「ふたりにはふたり」と平仮名にした所に、何とも言えない温かさを感じました。
一遅評 二人で寄り添って日々を生きる幸せが軽やかなレトリックで見事。いちょうも、いい背景。
歩10  秋冷に歩を取る指のなまめかし(華松)
紅螺評 秋の日、女性と対局する静かでやわらかな時の流れ、情景が浮かびます。
歩13 リハビリと言われ歩くや竹の春(珍椿)
鬼禿評 季語「竹の春」の起用が極めて上等。こういう課題の場合、ただ「秋の季語」をつけてもダメ。主題である「リハビリ爺の意気地」を感じて余りある季語「竹の春」である。うまい
酢18  かぼす切る酸は刃先を浸蝕し(虚視)
矢太評 景を詠っただけではない。もっと深い鋭い叙情を詠んでいる。鮮烈だ。

18名参加で「天」が15句。
紅螺さん、短冊3枚。虚視さん、矢太さん、すかんぽ、短冊2枚
「天」32点 舞蹴(7+16+0+9)
「地」29点 すかんぽ(3+7+6+13)
「人」28点 紅螺 (2+16+5+5)

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10月こあみ句会全句        18名72句

【酢橘】
縁あってスダチを絞る白い指(一遅)
指先に力を込めて酢橘の香(紅螺)
青き酢橘搾れば青き香りたつ(弥生)
巣籠りに送られ来たる酢橘かな(可不可)
ひとり鍋カボスが味を引き立てて(珍椿)
酢橘くる 夏の香りを引きずって(兎子)
すだちの香漂い戻る遠き日々(小文)
器量良し緑かぼすを棚もどし(華松)
酢橘沁みたか 泣いており痩さんま(鬼禿)
酢橘しぼる君居ぬ家の夕餉かな(玲滴)
じんわりと酢橘搾れば指芳(かんば)し(尚哉)
酢橘の実青一色の空の中(舞蹴)
デパ地下に 酢橘の香り 深呼吸(茘子)
酢橘の青まっ二つに切って決断す(矢太)
わが星を憂ふや酢橘搾りつつ(すかんぽ)
思い出はほぼ苦し酢橘しぼる(下戸)
かぼす切る酸は刃先を浸蝕し(虚視)

【秋の霜】
秋の霜踏みつつ巡る湖畔の宿(珍椿)
いつの間に地球動くや秋の霜(尚哉)
寝袋のぬくぬくぬくし秋の霜(すかんぽ)
秋の霜濃茶茶碗は楽の黒(紅螺)
手のひらで 涙と溶ける 秋の霜(茘子)
おはようと吐く息白し秋の霜(下戸)
露霜やしとどに濡れて草の原(弥生)
薄れゆく記憶のページ秋の霜(虚視)
秋の霜今年もここまで来てしまい(一遅)
足跡に猫のためらい秋の霜(舞蹴)
銃声をたしかに聞いた秋の霜(矢太)
秋の霜 孕み奪ひし者が踏む(華松)
目覚(めざ)むれば 一夜の宿に 秋の霜(考多)
露霜やコンビニ店の車椅子(可不可)
目覚めたら 薄暗闇に秋の霜(兎子)
死者100万 抱いて地上の秋の霜(鬼禿)
土払う幼き指の秋の霜(小文)
公園に子らの声なく秋の霜(玲滴)

【水澄む】
水澄むや 一人手紙を 燃やす夕(茘子)
水澄んで遠くに富士の見える朝(一遅)
清正の井戸滾々(こんこん)と水澄みて(紅螺)
水澄むや魚影目で追ふゆらゆらと(弥生)
水澄むや青き地球よ永遠に(舞蹴)
あるようなないような夢水澄む(下戸)
水澄みぬ プールに君がいるだけで(鬼禿)
水澄むも河底に一尾の影もなし(矢太)
まだ行けぬ 最北の村の水澄むか(兎子)
水澄みて鳥に狙わる魚かな(華松)
水澄む里 万物清(ばんぶつきよ)らに 育(はぐく)まる(考多)
底の底水澄み闇の深まりて(虚視)
水澄むや甲斐に火の神山の神(すかんぽ)
一人行く十和田の湖の水澄みて(玲滴)
水澄みていすゞの流れとこしへに(珍椿)
水澄みてカヤック軽やかに渡る(可不可)
くきやかな背びれの錫や水澄めり(小文)
水澄んでついと立ち去る渡り鳥(尚哉)

【歩】
不安連れ歩く巷やそぞろ寒
君歩めドンと鳴ったらあっちゅーま
芒舞う歩兵は一歩も進めない
ふたりにはふたりの歩調いちょう散る
今宵歩く 終わりし道の 秋蛍
犬老いて嫌う散歩や冬の朝
駅ふたつ歩けばゆかし秋の暮
天高く歩み愛おし幼子の
余命一年と決めれば軽ろき 一歩。
秋冷に歩を取る指のなまめかし
老いて母歩は軽やかし花芒
モニターで紅葉眺めて今日1000歩
リハビリと言われ歩くや竹の春
封じ手の一歩千金宿の秋
歩く人に ついて行くなり 落葉たち
ファーストシューズの一歩は銀杏落葉踏み
虫の音を止めて歩んで露天風呂
病癒えて八十路の歩み鰯雲

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