SSブログ

バルタンの呟き №73 [雑木林の四季]

   「山の大笑い」

                映画監督  飯島敏宏

山笑う、とは、もうとっくに過ぎてしまった梅、桃、桜、柳と、花から花へそして緑へと移り、鳥の声が賑やかに漏れ聞こえはじめた山野の春の季語ですが、東京外れ40キロ圏の郊外住宅地にある我が家から150メートル先の、神奈川県と東京都の境の地標が埋められている小山が今、そんな光景なのです。啓蟄も遥かに遠く過ぎてなお、我が家に蟄居し続けている間に、ああ、暦の上ではもう夏になってしまったのですね。山はもう笑うどころか、大笑いです。

東京都心では、神田明神、湯島天神、そして、浅草三社祭と続くお祭りの5月です。浅草寺雷門の大提灯も、オリンピック目当てだったのでしょうか、真新しく立派なものが寄進されて、吊り下がっています。が、緊急事態宣言という名の日本式ロックダウンの所為で、2020TOKYOオリンピック・パラリンピックが一年先送りされたいま、外国人はおろか、地元の人以外には、日本人の姿も極くまばらにしか見られないようです。お祭り大好きな僕でさえ、ここ数週は我慢我慢とテレビ画面で見るばかりですが、シャッターが閉まり、戸口も固く閉じられた仲見世通りには、人影もありません。人待ち顔で車夫がたたずむ人力車が数台あり、外国人相手の通訳有料ボランティアが、商売あがったりを嘆く画像も空しくて。

「もうかりまっか」で明けるという商都大阪の道頓堀でさえも、国難を背負って立つ大宰相ゴリエテ獣を相手に立ち向かうダビデ少年よろしく若き大阪府知事が跳ばした石礫大阪方式を誇る通天閣点灯には、少々物足りない疎らな人出です。西の都京都から聞こえてくる声も画像も、情けなや、葵祭は中止、やがて迎える夏の賑わい祇園祭さえも、はや中止と決まって、八坂、祇園花街石畳あたりも、暖簾の下がる店先に割烹姿で水打つのも空しく、人影も見当たらぬ有様です。

さて、
“目には青葉山ほととぎす初鰹”どころか、全国的に有名割烹店が閉まっているせいで、あちこちの魚問屋、おさかなセンターからの通販ご注文の電話が鳴りやまぬばかりで、わが街、東京の近郊ニュータウンでは初鰹はさておき、外周に残された緑の森から漏れ聞こえる鶯の声を縫うように、閑古鳥が、Stay Home!とひっそりと声潜ませて泣いている始末です。

ところで、日本映画の巨匠木下恵介監督と僕は、まったくのところ、師弟関係ではありませんでしたが、昭和45年(西暦1970)から25年間もの間、亡くなるまで考えてもみなかった年月のお付き合いでした。監督としても、TBSと組んで会社を作ってテレビに進出しようという時に、「君って、変な人ねエ」と呆れる怪獣監督を経営協力者として送り込んで来るとは考えても居られなかったでしょうし、僕自身も、「経営さえすれば、木下先生との話し合いで君が何をやろうと勝手にどうぞ」とTBSから言質を取っての出向でしたから、映画監督としてはもちろん、脚本書きとしても師弟関係ではなかったのです。ただ、自信を持って言えることは、木下恵介監督は、僕のお酒の師匠だったということです。下戸だった初対面から晩年まで、監督の自宅マンションその他で、差し向かいでお酒を頂いた時間の長さだけは、ほかの方に引けを取りません。経営だの企画の話は、さっさと済ませて、さっそく「君、何を飲む?」です。なにしろ酒豪でおしゃべり大好きですから、四方山ですが、その中で、(若くして次々に大入り満員の映画を監督していた松竹大船撮影所時代)撮影所近くのレストランで昼食をしているときに、先輩のS監督から「木下君、これ、面白いよ、読んでごらんよ」ポンと、食卓に投げ渡された本が、袋とじのフランス語の原書だったというのです。
工芸中学出では、フランス語など原書で読めるはずがありません。大学出のインテリ監督のある意味のいやがらせでした。
でも、これが発奮の端緒となったわけではないでしょうが、監督は、実に博識で、不勉強だった僕が密かに冷汗をかいたほど博覧で、語彙に富んでいました。ただし、自室の書棚にぎっしりと本が詰め込まれていたかというと、そうではありません。話題の新刊書は広く目を通しておられたけれども、読み終わった本は、ほとんどすべて、古本屋に売ってしまうのです。
「おいしいものをたくさん食べたければ、吐いてしまえばいい、味わうのは口と喉です」
そして、ある時、帰りがけに、当時オリジナルで書き下ろしておられたテレビシリーズの
ある回の副題にと「山笑う」を、プロデューサーだった僕に提案されたのです。
「一般的ではないのでは」
と少し逡巡した僕に、
「大丈夫」
と言われた通り、書きあがった脚本は、充分に副題がうなずける内容でした。

Stay home! が、世界的な経済活動ひっ迫と国内大企業からの圧迫の均衡に耐えきれなくなり、地方各自治体方面からのパンデミック警戒の声を押し切って、交流営業を認める実質的な緊急事態解除の閣議決定には、危うさを感じてしまいますが、諮問委員会のメンバーを入れ替えての強引な遂行です。
慎重を期して、さらにStay home!を継続する東京都知事の、市民目線に添いつつ自説を通すお願いの通りに、超高齢にしてしかも誤嚥性肺炎を、近々に再度経験した僕は、コロナ恐ろしやと、さらに蟄居しつつ呟いているのです。

ふと思い出した木下監督の「山笑う」についての調べついでに、蟄居バルタンがひとつ呟きます。
「山階道理」という言葉。藤原不比等の建立した興福寺、俗称山階寺が、藤原氏の繁栄で権力を握り、非道なことを押し通したことから生まれた言葉です。道理にかなわないことも山階寺にかかれば通ってしまう事。いまこうして呟いている最中、某検事の、内閣府お手盛りの定年延長案が、火事場泥棒まがいと非難されつつも、我利によらずと、三権分立の崩壊を危惧する国民の反対を押し切って通されようとしています。

ところで、アベノマスクと10万円は、僕のところにはいつ届くのでしょうか。町内自治会催し物中止の予算で、すでにわが町内は立派なマスクが配布終了いたしました。さらに、あれだけ品不足で騒がれたマスクが、今ではわが街の老婦人たちの間に自作ブームを生んで、いまや各々が、ミシンを踏んだり裁縫したり、自作と他人作を比較改良したり、自信作の型紙回覧を行ったり、施設へのプレゼントさえ始まっているのです、

その、アベノマスク。安倍首相の賭けているマスクです。何処か寸足らずで、効果のほどが疑わしく、しょっちゅう指先で釣り上げるしぐさが目立ちます。責任者がちゃんと現品を見て発注したのではなかったのでしょうか。
菅官房長官のマスク、アベノマスクに奥様か誰かが、筋金を入れなおしたとかで、ついでに、故郷製品のシールを張っているという解説です。
今回一番目についたのが宮城県知事マスクです。ネットで「かわいい!」と評判をとったというコメント付きで、白地に張られた絵柄は、お国自慢のゆるキャラ、むすび丸シール。
「あっ!これは!」
僕、バルタンも仰天しました。作詞千束北男、作曲冬木透。ウルトラマン・セブンのコンビです。
「最近あまり活躍していないようなので・・・」
と、奥様が手作りでむすび丸シールを張ったというコメントです。むすび丸のキャラクターソングこそは、東日本大震災直後の宮城仙台伊達観光推進ソングとして千束北男こと僕が宮城県内各地の観光と魅力を読み込んだ詞を、当時、CMソングの女王と言われた天知総子さんが歌ったものだったのです。
可哀いそうなは、最近代理戦争のように登場する西村担当大臣のマスク、なにやらアベノマスクの色変わりのような・・・
菅官房長官のマスクも、当初のアベノマスクが変わって、お国自慢シール。これも奥様手作りとのこと。
近頃は、さすがのファッショナブルな着こなしも、ややお窶れとお見受けの都知事小池さんの日替わりマスクは、ペット友達からのプレゼントだとか。沖縄県知事も夫人の手作りで、コロナ騒ぎが終わったらぜひ沖縄へ・・・と。

「山見えぬのに坂を言う」まだ山の頂上も見えないのに、もう、その向こうの坂の事を言う。そうなのです。
新型コロナウイルスの元凶さえはっきり特定もかなわぬうちに、その先の事に手を染める、
まだまだ早計だということです。


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。