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検証 公団居住60年 №55 [雑木林の四季]

第三章 中曽根民活~建替えに対する居住者の困惑と抵抗

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

4 建て替え事業の変遷と制度の手直し 1

 『住宅・都市整備公団史』(2000年刊)は、住都公団期における建て替え事業の進捗状況をつぎの3期に分けて述べている。1.順調な事業進捗(1986~89年度)、2. 転換期(1990~95年度)、3.新公団への橋渡し(1996~99年度)

 第1期は1987年度の2団地537戸の着手にはじまり、89年度は予算上10,000戸が認められ、18団地8,144戸に着手するなど順調に推移した。この期間の戻り入居率は59.3%、そのうちの建て替え後分譲住宅への入居率も16.0%と高かったという。なお、98年度までに戻り入居が完了した団地の合計では、戻り入居率55.1%、建て替え後分譲住宅入居率8.4%となっている。
 公団はこの期の特徴に、戻り入居希望者が「予想」以上に多く、団地内で仮移転のための受け皿住宅が不足となり、対策としてブロック方式をとったことをあげている。この方式は88年度着手の青戸団地(東京・葛飾区)で初めて採用した。
 建て替えにかけた公団の思惑は、この「予想はずれ」に早くも露呈したといえる。さきの上田耕一郎議員の87年7月30日の委員会質問に、渡辺尚公団理事は小杉御殿団地(川崎市)での希望調査では「戻りたいという方は40%」と答えている。そのさい戻り入居者への7年間の減額分は「公募家賃の33か月分」と明かした。公団は建て替えで60%の世帯が退去すると見込んで計画を立てていたのであろう。しかし60%が戻るとなれば、一時的とはいえ家賃減額等の措置を要する入居者が増え、公募家賃分の収入が減って採算見込みに狂いがでるということのようだ。
 また上田議員は、武蔵野線町団地(東京都武蔵野市)について公団の試算例をしめし、原価が戸当たり77,314円を2万円高く約96,200円の家賃で貸し、分譲住宅は原価約2,390万円を3,980万円で売って儲けようとしていると質した。こんどは「戻り率95%」として高く計算し、実際には50%ぐらいの戻りで家賃減額は少なくてすみ、当初から半数は公募家賃が入るから、その席で丸山総裁がいった「ある程度儲かる」どころではなく、もっと大儲けになる。家賃計算の資料をだすよう求めても、総裁は「個々の団地について召出しすることはできません」と逃げた。建て替え後の家賃を払えない世帯を追い出して高層にし、空地をつくって新たに分譲住宅をたてて売り出す。「順調な」すべり出しとはいえ、居住者にとっては非情な仕打ち、金儲け丸出しの正体を見せた。
 もう一つ「戻り入居」に問題があるのは、住みなれた団地に戻ったものの、7年とか10年間毎年1万円単位で上がっていく。それが終わると次は3年ごとのいっせい改定で値上げされ高家賃に耐えられず、またその団地からの再退去をよぎなくされるケースがけっして少なくないことである。当初55%あった戻り入居が、結局5年後に、たとえば30%、10年後には10%ということもありうる。公団の「建て替え」事業の目的からすれば、当然の結果なのだろう。

『検証 公団居住60年』 東信堂

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