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いつか空が晴れる №79 [雑木林の四季]

    いつか空が晴れる
        - Oceanic~Ravi Shankar~
                     澁澤京子

 友人がメールで送ってくれたアヌーシュカ・シャンカル(ラヴィ・シャンカルの娘)のyou tube演奏をきっかけにして、しばらくラヴィ・シャンカルのシタール音楽にはまることになった。
シタールの響きは、脳と体にじわじわと浸透する感じでなんとなく漢方薬のような効き目がありそうだ。
インドでは古代、音楽は医療目的でも演奏されたそうだから、コロナ対策として免疫力アップにもつながる(ような気がする)

はじめて、坐禅をしたのは代々木上原の駅前のビルの中の小さな道場だった。初心者だけ集められ、最初に禅についての説明を受けた。
私たちの心は海のようなもので、表面の波立っているのが泣いたり笑ったりの日常であって、海の底は静かで、みんな一つにつながっているのだ、といった内容の話。

海というのは、なんとなく音楽に似ていると思う。

昔、タルコフスキーの『惑星ソラリス』という映画を観た。ソラリスという海洋惑星があって、そこでは表面を覆っている海が、高度な知性を持った生命体なのだ。そこの惑星にいると、自分の無意識にあったものが具現化されて目の前に出てくる。ソラリスを探索に行った科学者クリスの前には、自殺した奥さんのハリーが出てくる。もちろんソラリスが、人の無意識を読み取って実体化したもの。
容姿から性格、記憶まで何から何まで自殺したハリーの完璧なコピー。
若いときにこの映画を観て、人はどんなに遠くに行っても、結局は自分の心、つまり自分にしか会えないんじゃないか?という、何とも言えない寂しい映画だと思った記憶がある。

この間、ハヤカワ文庫の『ソラリス』(スタニスワフ・レム)を読み、この物語は科学者クリスと自殺した奥さんハリーのやりとりがとても重要なのだということに気が付いた。
科学者クリスは、自殺したはずの奥さんが突然目の前に現れて、ハリーに対する愛情と、自分の無意識から突如出てきたハリーのコピーに戸惑って、どこかに消えてほしいという気持ちを同時に持つ。彼女にどのように対応したらいいのかわからないので苦しむのだ。
一方、ソラリスが送ってよこしたハリーのほうは、自分はクリスの想念から生まれたハリーのコピーでしかないのでは、と苦しむ。(その通りなんだけど)
つまり二人とも、自分で自分のことが一体なんなのかよくわからないので、悩むのだ。ハリーのコピーは、一体自分が何処から来たのかわからない、なぜここにいるのかもわからない。クリスの方は自分で自分の無意識から何が飛び出してくるのかよく分からないので恐ろしい。
そして、二人とも、だんだんお互いに愛情を感じ始めるのと同時に、自分で自分の振りをしているような変な気持ちになってくる。クリスにとっては、封印したかった妻の自殺と、ハリーにとっては思い出したくない過去が、あたかも二人の仮面になって貼りついてしまっているようで、二人はその過去の仮面にとらわれて苦しむ。
人はどこまで行っても自分にしか会えない、というより、人は自分の中によくわからない、コントロール不可能なものを抱えて生きているという話だったのだ。そして、そのなんだかよく分からないものがソラリスという海洋惑星なのだ。
自分で自分のことがよくわからない、人の無意識にあるコントロール不能なもの。

もちろん『ソラリス』はいろいろな読み方と解釈ができる物語。タルコフスキーの映画では、最後、主人公のクリスは自分の安らかな子供時代の記憶に帰っていったと思う。

昔、代々木の禅道場で受けた、海にたとえた人の心の話。人の心は不思議で、海の深いところには一体なにがあるのかさっぱりわからない。表面の波立った意識できる部分はほんの一部で、無意識の領域はそれに比べると圧倒的に深い。
もしかしたら、最後の秘境というのは、宇宙よりも人の心の中にあるのではないだろうか。


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