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日めくり汀女俳句Ⅱ №48 [ことだま五七五]

五月十八日~五月二十日

          俳句  中村汀女・文  中村一枝

五月十八日
サングラス若き長身持ちあぐね
          『紅白梅』 サングラス=夏
 テニスを始めた二十数年前は、まわりは二十代、四十代の壮年男女だった。今、見渡すと、定年前後の熟年、老年が意気軒昂とプレイしている。「年取った気がしない」という人と「衰えが目立つ」という両者に分かれる。年齢は実年齢ではない。いくつになっても好奇心を失わない人は見かけも、内容も若々しい人が多い。
 最近還暦を迎えた友人。「私もやっとおばあさんのお仲間になったわ。できたてのホヤホヤだけど」「それ、おばあさんのひよこってことね」

五月十九日
あひふれしさみだれ傘の重かりし
            『汀女句集』 五月雨=夏
 汀女は厳密な意味で恋する女になったこと があるのだろうか。私のずっと昔からの疑問である。
 若い頃、手紙をやりとりした相手がいただの、一緒に写真に写っていた男性があっただの、という話は聞くが、自らも燃え、一人の男のために何もかも見極められなくなるほどの激しい恋はしていないし、できないのではなかったか、と思うのだ。
 彼女は常に現実を見据える冷静な目を持っていた。仮に胸の中に焔が燃えても客観的情況の中でそれを押さえ込むだけの強さもあった。情感に溺れこむ前に現実を見つめていた。

五月二十日
蜘蛛の囲やわれらよりかも新しく
             『春雪』 蜘蛛の囲=夏
 昭和十年、汀女は大森山王に移る。汀女が大森山王に住んでいたことも、夫が、私も通った山王小学校の先輩であったことも、さらに私たちが山王二丁目に造った家が、汀女の住居と二十メートルも離れていないすぐそばであるのも、私は長い間知らずにいた。不思議な縁というべきものである。
 夫はこの家で家庭教師をつけられ、教科書の徳川家康像にどじょう髭をいたずら書きして叱られた。彼が終日蜻蛉(とんぼ)捕りに夢中になっていた草っ原は、今は私が適うテニスコートになっている。


『日めくり汀女俳句』 邑書林

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