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検証 公団居住60年 №45 [雑木林の四季]

第三章 中曽根「民活」―地価バブルの中の公団住宅 5

      国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

5.「敷地の適正利用」と「居住水準の向上」
 公団の建て替え事業が、中曽根「民活」、地価バブルと一体になってにわかに始まったことは先にみた。事業の主たる目的は「敷地の適正利用」である。敷地の適正利用とは、一般に(彰指定容積率にたいする現況容積の充足率を高める、②建物の高層化(=高容積化)、立体化(=住宅以外の用途使用)を図る、③高騰した地価に見合った収益の確保をめざすことをいう。
 公団住宅は大部分が指定容積率150~200%にたいし現況は70%を下回り、敷地の高度利用が必要と、建て替え正当化の論拠とした。東京23区全体の平均は1990年現在、指定容積率252%にたいし充足率は42%であった。指定容積率をそこまで使いきったら都市空間は破滅してしまう。問題は充足率の低さにではなく、過大な指定容積率にあり、これを切り下げて(ダウンゾーニング)、成長管理の都市づくりを図るべきと当時すでに専門家のあいだでは論議されていた。
 また住宅の高層化が、戸数増と建設コスト減にはたして有効かどうか、住環境と居住性、コミュニティ形成にもたらす負の問題点についても公団は十分知っていたはずである。そのころイギリスやドイツでは高層住宅は人間の居住にふさわしくないと取り壊しや減築がおこなわれていたと聞く。長い住棟を一部壊して短くしたり、高層を減築した集合住宅をわたしはベルリンで見ていた。
 建て替えの利点は、周辺地価が上昇しても、用地の新たな取得を要せず低コストで新築できることだが、公団にその考えはない。公団が法務省「借地・借家法改正に関する問題点」(85年11月)にたいして提出した意見書には、「建て替え」「戻り入居」の用語はなく、「取り壊して別個の建物を築造」「敷地を建物の所有以外の目的に使用」と記している。公団にとっては、既存住宅を壊して「別個の建物」を建てるにすぎない。従前居住者の地位保全はここでは埼外であり、別に代替住宅の提供、立過料の支払いの問題として扱っているのをみれば分かる。
 あくまで「新規供給」として敷地を時価で再評価して家賃を設定するから、事実3~4倍にもバネ上がった。高家賃を払える従前居住者は戻り入居するが、その資格要件は新規入居者と変わらない。負担できない居住者は、住みなれた団地を退去せざるをえない。公団は「地価の再評価はしない」、「他の新規住宅家賃との均衡を考慮するだけ」と説明して、結局それを認めている。公団の建て替えは、地価高騰に便乗した経済効率、収益本位の事業そのものである。
 建て替えのもう一つの目的にあげている「居住水準の向上」はどうか。 公団は最初の5年間に管理開始した住宅の44.8%、60~64年度の住宅でも40.3%が最低居住水準未満ときわめて低く、公団の1980年度定期調査によるとその時点では全体の2&6%が最低水準未満であり、戸数にして164,000戸あることを強調した。居住水準は世帯人員との関係で決まることで、住宅の規模そのものを示す指標ではないが、初期の公団住宅にスペースの狭さ、設備の古さ、遮音・断熱性能等に問題があるのはいうまでもない。しかし、それは住宅の適切な改修と計画的修繕、世帯人員に応じた無理のない住み替え制度を必要としている証しではあっても、ただちに建て替えの必要性に結びつくものではない。
 有効に利用すべきは土地だけでなく建物も同じである。政府の住宅統計調査(1988年)によると、公団・公社の賃貸住宅計81万戸の「腐朽破損の程度」は、「寿命が尽きた」が約300戸(0.04%)、「大修理を要す=大規模な修理をしなければ建物の寿命に影響があると思われる」は22,000戸(2.7%)で、建て替えの必要はなく、物理的構造的にまだまだ十分に耐用年数があることを証明している。居住性能の劣化を防ぎ、社会的機能的にも耐用性を保つための維持管理こそ求められている。公団の修繕業務指針も「住宅等の機能を維持し、予定耐用年数の確保を図る」ことと明記している。
 政府・公団は、大都市圏の地価狂乱に便乗して昭和30年代建設の公団住宅を一律に建て替え対象と決めこみ、スクラップアンドビルトの政策に乗り出したというしかない。貴重な社会資産として保全・改良する考えが後退することは必至で、建て替えに急傾斜する考えが強まれば、既存住宅のいっそ うの劣化、スラム化が加速する事態も予想される。公団の建て替えがけっして「居住水準の向上」を目的とするものでないことも明白である。


『検証 公団居住60年』 東信堂

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