台湾・高雄の緑陰で №26

      ２０２０年台湾総統と国会議員選挙について

　　　　　　　　　在台湾・コラムニスト　　何　聡明
 
  來年１月１１日に行われる台湾総統選挙と立法委員（国会議員）選挙の候補が１１月２２日に出揃った。総統選挙に立候補したのは現職の民進党蔡英文女性総統、６３歳；中国国民党の現高雄市長韓国瑜、６２歳（外省人、軍人出身、裕福な台湾人妻あり）；親民党党首宋楚瑜、７７歳（外省人、蔣経国前総統の重量級幕僚、李登輝前総統が任命した元台湾省主席）、以上３名の選挙戦となった。
  ２０１６年の総統選挙で勝利した民進党は立法院（国会）でも初めて過半数の議席を得て全面執政権を得たが、過去３年半の民進党執政に支持者がやや高い評価をくだしたのは公務員、教職員と軍人の「年金改革法」ぐらいで、争議の多かった「同性結婚法」と「労働基準改正法」を先行させたことには不満であった。だが、蔡英文総統は「同性結婚法」の成立はアジアでは初の画期的な法律であると自慢した。また、蔡政府は武力で台湾統一を辞さないと公言する敵国「中華人民共和国」に対抗する法律を優先立法せず、親中政党党員と民衆が首都台北市と各地で中華人民共和国国旗の掲揚と国歌の斉唱を行うのを放任している。以上の失政が祟り、民進党は２０１８年１１月の地方選挙で惨敗した。その惨敗の要因は立法の優先順序と実施を取り間違えた結果であったことを蔡政府は深く反省しなければならない。残す半年の執政期間に（注１）蔡政府は早急に反統一法を立法して、支持者に受け入れられる政見を発表し、その実行を誓約できるか否かで、来る選挙で民進党の勝敗が決まるはずだ。
  蔡総統の次期選挙のプラス要項になっているのは、日ごろから「自分は台湾独立運動の実行者であると」公言する元台南市長、元行政院長の頼清徳氏を次期副総統の候補に指名したことである。近年來民進党とある程度の距離を置いていた台湾独立支持者の回流で、蔡総統連任の可能性が強くなったと考えられている。
  中国国民党の総統候補の韓国瑜氏は２０１８年の１１月２４日に高雄市長に当選したばかりの、道化役者のような言行で異色を放っている人物である。高雄市長当選３ケ月後には自ら総統選挙への立候補を宣言し、党内の候補選挙で首位に立ち出馬が決まったが、その後、高雄市長は市長の職務はそっちのけで総統選挙にのみ励み、高雄市民の顰蹙と怒りをかっている。国民党内でも彼の言行に批判的な幹部は多いが、最終的には協力一致して彼に投票するだろう。韓市長を支持しているのは中国統一志向の国民党支持者だけではなく、あの手この手を使って独立志向の民進党政権を引き摺り下ろそうとしている中国共産党も陰に陽に韓氏を支援している。だが、総統選挙で落選すれば、韓市長を待っているのは高雄市民による市長罷免の公民投票である。
  親民党の総統候補宋楚瑜氏は中国国民党から脱党して親民党を創立した人物だが、台湾省主席時代に広く台湾人との人脈を作り、台湾党員を多く抱えている。宋は過去台北市長選挙に１回、副総統選挙に１回、総統選挙に３回出馬したが、いずれも落選、今回の出馬を今生の最後の選挙であると言明した。宋氏は今年国民党内の総統候補の初選に参加して落選した台湾の首富と呼ばれている郭台銘（台湾人の後妻を持つ、中国と米国に大規模な投資をしている鴻海企業集團の創立者で実際上のオーナ）と結び、郭の幕僚数名を親民党立法委員の候補に立てたので、国民党支持者から親民党へ多くの票が流れ、民進党支持者からも多少票が親民党へ流れると考えられている。巨大資産を擁する郭台銘の動きに与野党が神経を尖らしている。
  来年の総統選挙と同時に行われる定員１１３名の立法委員選挙では区域別選挙による７９議席と政党別選挙による３４議席の選挙が行われるが、選挙の結果１１３議席の過半数を得る政党はないだろうと予測されている。それ故、次期政権を取る政党は小党の委員、または無党派委員と組まなければ、自党の求める法律を立法または改正できないことになる。立法委員の区域別選挙には４３３人が立候補、政党別選挙には２１７人が立候補しているが、立候補数はいずれも台湾の立法委員の選挙歴史では破天荒である。
  立法委員選挙の結果は来年２月に発足する新国会の生態を左右する。自由民主を信奉する台湾人が期待するのは、本土民進党が総統選挙で勝ち、民進党立法委員が台湾派の小党委員と固いスクラムを組み、立法院で議席の過半数を占め、既に巨額の資金を駆使して中国との統一を目指し、台湾各地に潜伏する中国共産党の第５部隊（縦隊とも呼ばれる）の摘発とその陰謀に対抗する法律を緊急立法、実施することによって台湾を専制中国の侵略から守ることである。

（注１）総統の選挙結果は１月に決まるが、前任と新任の交替は５月に行われる。