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日めくり汀女俳句Ⅱ №43 [ことだま五七五]

五月三日~五月五日

         俳句  中村汀女・文  中村一枝

五月三日
今昔(いまむかし)西日の海や青草や
        『薔薇粧ふ』 西日=夏 青草=夏
 憲法記念日の影が年々薄くなる。私たちの年代になると平和の有難さは身にしみている。この憲法で守られてきたものがあると考えたくなるのだ。戦争放棄なんて堂々とうたい上げている憲法など、めったにあるものではない。それだけだって影の薄い憲法などと思いたくないのだ。
 アメリカにいやいや押しっけられ、体に合わない不自由な洋服を着せられたという説もあるらしいが。
 今は洋服を着る国民の側が背丈も伸び、心も体も以前よりぐんと自由になった。憲法の着心地のよさを充分味わっている気がする。

五月四日
真上なる鯉幟(こいのぼり)まづ誘ひけり
             『汀女句集』 鯉職=夏

 雛祭の雛は大人になっても飾るが、鯉職は大人になるとまず立てない家が多い。
 最近なのか、もう前からなのか、不用になった鯉職を集めて、広い河原などに何百という鯉を泳がせているところがあるらしい。
 私の行く八ヶ岳高原でも、毎年へんぽんとひるがえる鯉職を見る。
形も色も様々な鯉職が広い田圃の上に悠々と泳いでいると、これぞ鯉職と思い、気持ちまで広がって、気分も壮大となる。
 飾り付けは大変だろうが、それまでちまちました路地奥やベランダなどで、ささやかにゆれていた鯉臓は今大空にひるがえって満足気だった。

五月五日
菖蒲湯(しょうぶゆ)を拭(ぬぐ)ひもあへず出づ子等と
            『汀女句集』 菖蒲揚=夏

 スーパーの店先に菖蒲が積み上げられている。百円とか百五十円とか、今も菖蒲湯に入る若い人もいるのだろうか。
 私が伊東に疎開していた頃、隣の大家さんの家に貰い湯に行った。伊東だからそこのお湯も当然温泉。二十畳くらいの広いタイル張りの浴室には浴槽が二つあり、近所の人もよく貴い湯にきた。当然混浴だった。風呂場は地下一階にあり、浴場のガラス窓をあけると、まわりは鯉の泳ぐ水槽があり、斜面は一面の花や木が植え込まれていた。五月近くなると紫色の菖蒲が花をつける。風呂につかりながらそれを眺めているのは賛沢な気分だった。


『日めくり汀女俳句』 邑書林

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