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いつか空が晴れる №65 [雑木林の四季]

    いつか空が晴れる
          -ロング ロング アゴー―
                      澁澤京子

 子供の頃、祖父の家に遊びに行くと、時々祖父はハーモニカを出してきて「峠の我が家」や「ホームスウィートホーム」を吹き始めることがあった。
晩年の祖父は、よく自分の子供時代のことを話してくれた。夕方になると、庭に蝙蝠が飛んでいた話、床に映るステンドグラスの青い影を海にみたてて、おもちゃの船で遊んだ話・・
子供時代の回想をする祖父に、こうしたノスタルジックな曲はぴったりだった。

祖父は昔、田園都市計画のために欧米に視察に行ったことがあって、特にアメリカを気に入っていた。
ある日、祖父の家で夕食を済ませた後だったと思う。祖父がアメリカをほめるような話をひとしきり話した後、こう締めくくった。
「あんな物資の豊富な国を相手に、日本が戦争をしたなんて、実にバカバカしいことだね。」
「バカバカしいですか?何がバカバカしいんですか?」
父はカッとしたのか、急に声の色が変わった。隣に座った母が無言で制止しなかったら、父がなにを言い出すか分からないような不穏な空気が辺りに流れた。
俯いて怒りを押さえた父は、耳まで赤くなっていた。
戦争に行った父は、友達を戦争でたくさん失った。普段は靖国神社を否定しているような父だったけど、祖父からそういわれるのは我慢ができなかったのだろう。

今年の長い梅雨に体調を崩して入院し、退院したばかりの父はめっきり身体の衰えが目立つようになってきた。
そして父もまた最近は、祖父のように子供の頃や若いころの思い出を語ることが多くなってきた。
Sという早逝した叔父(父のすぐ上の兄)がとても優しかったこと、長女であるE子叔母が若いときとても美人で、銀座を連れて歩くと皆が振り返るのが自慢で、学生の父はよくE子叔母を誘っていろいろと連れ歩いたこと・・
「E子さんが老人ホームから遊びに来てくれって、手紙くれてね、僕は一度会いに行けばよかったと思ってね・・」

また家族団らんのときは、暖炉のある居間で、誰かの伴奏で「ロングロングアゴー」を兄弟姉妹みんなで歌ったりして遊んで過ごしたらしい。そして、それがとても楽しかったこと・・・・
家族団らんのときに、皆でロングロングアゴーを歌う大正生まれの子供たち。なんだか、のどかな時代だったんだなあ、と微笑ましい。

祖父母はもちろん、父の兄も姉たちも皆亡くなって、今はもう父が一人残された。

生前、様々な確執があったのだろう、父の兄も姉たちもそれぞれが仲良く付き合うということはほとんどなかったし、父は祖父に親孝行していたけれど、同時に反感のようなものを持っている部分も微妙にあるのは子供の私にも感じられた。

しかし、最近の父を見ると、父が今、誰よりも懐かしく会いたいのは、祖父母、そして大人になってからはあまり仲良くすることのできなかった、自分の兄や姉たちじゃないかという気がするのである。

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