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日めくり汀女俳句 №34 [ことだま五七五]

四月六日~四月八日
          俳句 中村汀女・文  中村一枝
四月六日
しだれ桜もつとも風に耐へんとす
           『薔薇粧ふ』 枝垂桜=去
 桜もほころび、三月末日、有珠山噴火のニュース。火山国日本と言えばそれまでだが、その都度、わが家を、家畜を、残して避難する人の悲しみ、身に迫る。
 そんな最中、「熊日」から電話。「やっちゃいましたよ」「何を?」「今日の句、春眠のせめてさだかに透き人、は前に出ています」
 目の前に噴煙立ち昇る。あってはならない、私のミスである。
 汀女の句を毎日楽しみに切り抜いている方もあるというのに、申しわけなさと情け無さが入り混じり、噴火のニュースを眺め続けていた。
四月七日
満開の花の沈める夜にふるる
             『汀女句集』 花=春
 汀女が、淀橋税務署長に赴任した夫と新婚生活を始めたのは東京中野・塔の山である。
 二十そこそこの新妻である汀女は毎日心細く、故郷が恋しく、父母が懐かしく泣いてば
かりいた。
 それまで見慣れた風景、聞きなれた言葉から突然外国へ放り出されたようなもの。当時の東京と熊本は今のニューヨーク東京間よりずっと違いのである。
 気晴らしに長谷川かな女の句会に出席、気をよくして氷水を飲んでいて帰りが遅くなり、夫から叱られた。いまだ女学生気分抜けやらぬ汀女だった。
四月八日
昨日より顔見知る子も春雨に
            『汀女句集』 春雨=春
「あら、久しぶりねアニちゃん、元気だった」。グレイのプードルタロくんを連れた奥さんが、ア二に声をかけ、私は目をばちくり。
「昨日も一昨日もタロくんに会ったわ」
「いつ? どこで?」
 してみるとこの間から私が親しげに声をかけていたプードルとおじさんは? 私が「タロくん、タロくん」と言うと、彼は短いしっぼをちょろちょろさせて喜んだ。でもアニはいつになく冷淡で、「アニ、あんたタロくんを忘れちゃったの、ほら仲良しの」としつこく言っていた私は何だったのだ。

『日めくり汀女俳句』 求龍堂

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