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日めくり汀女俳句 №23 [雑木林の四季]

月四日~三月六日

                  俳句  中村汀女・文  中村一枝

三月四日

我が気勢知ると知らざると蛙の子
          「汀女初期作品」 蛙の子=春
 汀女は決してお行儀のいい優等生ではなかった。校庭を近道して走っていくのを教頭先生に見とがめられ呼びつけられて叱られた。若い娘が袴(はかま)の裾を乱し、はあはあ息を切らせて走っているなど、はしたないことだった。
 上級生になるとオルガン実習があったが、汀女は大の苦手だった。当時、音楽教師は「故郷の廃家」「旅愁」の作詞で知られる犬童球漠だった。ドレミドレミと汀女の指を押さえて間違いを直した。
   幾歳(いくとせ)故郷来てみれば
   咲く花囁(な)く鳥そよぐ風……
 私たちにも懐かしい歌である。

三月五日

春雪と芽木のささやき聞く如し
      『芽木威あり』 春の雪=春 芽木=春
 
雛を飾るのは楽しみだが、雛をしまう方はおっくうである。つい、しまい忘れて何日もたつことがある。昔は雛を早くしまわないと、娘が嫁き遅れるという言い伝えもあった。そのせいかどうか、今どき、娘たちは中々結婚しない。
 人形の顔を一人ずつ薄紙でおおい、除虫剤を入れる。別に意識して区分けしているわけではないのに、つい内裏雛が先になり、五人雌子は後まわしにしているのがおかしい。
 物言わぬ人形達の目はいつでも何かを語りかけてくる。〝来年又逢いましょう″なのか〝未年迄達者でいればいいね″なのか。

三月六日

春服(すんぷく)のはや丈のみは高き娘も
            『汀女句集』 春の服=春
 
女学生の制服は年々お酒落になっていく。それも三万から六万という高価さ、ここまでファッション性を追求するならいっそ自由にしてしまったらと思う。
 私が女学校一年の時は様々な制服姿だった。物のない最盛期である。お姉さんのお古のサージの制服を着た級友が何と贅沢に見えたことか。父親のモーニングのズボンを直した子もいたし、絣(かすり)のモンペに白い衿(えり)をつけた改良服もあった。
 素足に藁草履(わらぞうり)から、下駄(げた)ばきというのが圧倒的だった。運動靴に父のお古の靴下をはいて私は得意だった。

『日めくり汀女俳句』 邑書林


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