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はてしない気圏の夢をはらみ №28 [文化としての「環境日本学」]

願望

                               詩人・「地下水」同人  星 寛治

  まだ見ぬ沖縄の友から
  山原(やんばる)の香気を詰めて
  あおいささげが届いた。
  珊瑚の海をこえ
  三千キロの天空を駆けて
  さやかな形のまま
  竹節にあふれる
  いのちの群れ、

  掌にのせると
  北の冷気に肌をそめて
  とおい赤土のぬくもりを
  ひたひた伝えてくる。
  小刻みな時間とか、
  目の廻る忙しさとかを
  すっと超えるもの、

  ふところの手帳に
  ひしめく暦の
  とらわれの時(とき)、
  失なわれた余白への頗望

  時間バンクに積立てた
  せわしげな時(とき)の総量は
  はたして、
  この空洞の五体を
  癒してくれるだろうか

  青いささげを抱え
  ふと立ちあらわれた
  野性のモモは
  語りかける、
  「はてしない野道を
  ゆっくり、
  ゆっくり歩こうよ、
  くたびれたらタイム、
  そして、また一歩
  足跡など消えてもいいよ。」

  あたり一面の草花や
  鳥や、虫たちや
  風の音や、水の音、
  いのちの饗宴(うたげ)に溶けこんで
  ぼくは直ぐに
  やさしい生き物になる

  幾可学もようの世界から
  解き放たれて
  耕やす土の豊籠や
  あの山なみの曲線や
    円みをおびた水平線に
  ぼくの複眼が吸い込まれて
  かすかに地球の明日が
  見えてくる。

『はてしない気圏の夢をはらみ』 世羅書房


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