日めくり汀女俳句 №47 [ことだま五七五]
十二月四日~十二月六日
俳人 中村汀女・エッセイスト 中村一枝
十二月四日
時をりに夜風は強し聖樹市
『都鳥』 聖樹=冬
十二月に入ると、いよいよ町は歳末に向かって動き出す。ここ何年かの傾向だが、東京の住宅地では、クリスマスイルミネーションや玄関のデコレーションが年々華やかになり、街行く人の目を楽しませてくれる。クリスチャンでもないのに、と目くじら立てることもないだろう。
犬の散歩をしていると、いろんな家で趣向をこらした屋内外のライトアップや玄関先の飾りつけが目に入る。毎年洗練され、色も形もさまざまな工夫があって楽しい。世の中暗い事が多いから、せめて見かけだけでもほんのりした気分でいたい。
十二月五日
落つ雨にすぐ掃きやめぬ石蕗(つわ)の庭
『春雪』 石蕗の花=冬
南の島へ新天地を求めて移住していった友人からエアメールがきた。ミクロネシア連邦の中のボナペ島。連邦の中には、かつて日本の統治下にあったトラック、サイパンなどおなじみの島々。地理音痴の私にも様子がわかる。かつては日本統治下の島として、戦争中は民間人の玉砕という痛ましい思い出で覚えている。ボナペ島はその中で被害のない島だ
った。アメリカの信託統治と豊かな環境で、住人はあまり働かなくてもすむそうだ。地震、台風、火山、殺人事件も無縁の、平和そのものの島は、日本からみると夢の島らしい。
十二月六日
子等のものからりと乾き草枯るる
『汀女句集』 枯れ=冬
先月二十九日付夕刊文化の、「こんな物があった」に載っていたカルイ(背負い子)の話を読んで懐かしかった。昭和十九年、東京から伊東へ疎開した。小学高学年は勤労奉仕の薪運びや、ススキ刈りに狩りだされた。その時背負い子は必需品だった。
隣の大家のお爺さんは耳の遠い厳格な人で、ほとんどロをきかない。その人が一晩かかって私のために背負い子を作ってくれた。肩のところに赤い布が縮み込まれている小ぶりのものだった。その時のうれしさ、一晩中枕元において寝たことを思い出す。
『日めくり汀女俳句』邑書林
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