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ペダルを踏んで風になる №45 [雑木林の四季]

なじみ

           サイクリスト・バイクショップ「マングローブ・バイクス」店主  高橋慎治

念願のレーサーシューズを手に入れ、シューズとペダルのセッティングがしっくりくるようになりました。
私にあてがわれたカンガルー革のディアドラのレーサーシューズはヨーロッパサイズで40です。
普段の運動靴のサイズが27.0~27.5㎝くらいですが、レーサーシューズでヨーロッパサイズ:40は25.0㎝強というところでしょうか。
薄手の自転車用ソックスを着用してからレーサーシューズを履くのですが、きつくて足が痛い思いをしばらくしました。
さらに当時のペダルはトゥクリップとストラップでの足の固定ですから、慣れないうちはシューズのきつさとストラップの締め付けで血行が悪くなり足先が痺れたりもしました。
そんな状態に少し慣れた頃、いつものように国道20号の峠を越えた湖までの練習の帰路に雨に降られてしまいました。
自転車は快適な装備など一切ないレース仕様のロードレーサーです。
当然、車輪が巻き上げる雨しぶきなどを遮るマッドガードもありません。
でも、大事な自転車を雨に濡らしてしまうのに多少は気が引けたのですが、自宅に着くまで雨しぶきの上がりにくい徐行走行は晩秋の雨と言う事もあってそれもまた気が引ける状態なのです。
ゆっくり走っていても降りしきる雨で全身びしょ濡れです。
そこで、雨の峠道で下り坂ですが「濡れて寒いなら、さっさと終わらしてしまおう・・・」と意を決してペダルに力を込めます。

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最近のMTBでは主流のディスクブレーキと違って現代のロードレーサーもいまだにリムをブレーキで挟むリムブレーキが主流ですが、このブレーキシステムは雨天や積雪時にリムのブレーキシューの当り面が濡れてしまうとブレーキの初期制動がすこぶる悪くなります。
そしてブレーキの利かない事によるいつもより強めのブレーキ操作によってリムにまとわりついている水膜が掃けた途端、いつもより強めに操作しているブレーキは、たやすく車輪をロックさせタイヤをスライドさせます。
練習やサイクリングに行って雨に降られることは多々ありましたから怖気づくことはあまりないのですが、やはり気の乗らない事には変わりありません。
ところが、そこは自転車人です。
雨に降られて結局は全身ずぶ濡れですから、普段と変わらない走りになっていきます。
当然、ブレーキ操作は雨天向けの操作感覚を意識してタイヤがスリップしないギリギリのブレーキを意識します。
ブレーキ操作をいつもの減速ポイントよりも手前から開始して、リムにまとわりつく水膜の掃けるタイミングを探ります。
コツがつかめてくると水たまりの大きさや深さ、斜度による速度感等の関係性を身体が覚えてきます。
そんなことを繰り返して自宅に戻るころには「雨ブレーキ」の感覚をマスターしていることになります。
「雨だから練習に行かない」のではなく「雨だから練習に行く」とは、イタリア人の世界チャンピオンの言葉です。
その言葉を雑誌で見てからは、夏場は雨でも努めて街道練習に出かけました。
皆が嫌がるシチュエーションを苦もない得意な状況にしてしまえば、それが必殺技になります。
また、実は雨天走行には副次的なメリットもあり、空気中の水分量が飽和状態なことによる呼気からの脱水症状の軽減です。
晴天時では運動負荷が増幅すれば消費酸素量も増加します。
早い話がたくさん呼吸をしないとならないので喉が渇くのです。
こぐことに必死になって気持ちに余裕がなくなってくると水分補給を怠っていることにも気が付きません。
知らずのうちに脱水症状傾向に陥り、パフォーマンスが低下してしまうのです。
この負のスパイラルですが、雨練習もしている人たちにとっては雨天のレースで「勝ちパターン」に変わることがあります。
大概の人は、雨→濡れるのが嫌(ネガティブイメージ)→ブレーキが利かない→スピードが出せない→モチベーチョンが下がる→勝機をあきらめる・・・ という連想ですが、雨練の人は、雨→皆は嫌がるけど自分は平気!(ポジティブイメージ)→ブレーキ操作は大丈夫→スピードが出せる→前々勝負ができる→モチベーションが上がる→勝機をつかむ!
まさにピンチがチャンス、人の嫌がることをすすんで行うことで結果が変わってくる良い例だと思います。

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雨天での練習が終わると当然自転車や道具の手入れをしますが、レーサーシューズも高価なモノですからきちんとお手入れをします。
私のものは天然皮革のレーサーシューズですから日陰で風通しの良いところで乾燥させる必要があります。
ただ、そうはいっても練習は待ってくれません。
翌日もその次の日もレーサーシューズが生乾きだろうとロードレーサーで練習に行くためにはシューズを履かないわけにはいきません。
なめし皮で小銭入れやポーチなどの革小物作りを趣味でされている方はご存じだと思いますが、乾燥している天然皮革は水に濡れると軟らかくなり伸び易くなります。
ナイフ作りを一度やったことがあるのでシースという鞣革のケースも一緒に作りました。
シースは、一枚革にマチを設けて袋縫いにした状態で、差し込んでいるナイフが奥に刺さらずに抜け落ちないものにしないとなりません。
ですから、刃と握りの間の柄がマチや袋に引っ掛かるような型を革につけなければなりません。
革のシースをぬるま湯に浸して革を緩ませてからラップで包んだナイフを挿入して水気を拭き取ります。
シースの中にしまうナイフ本体を型にして整形していくのです。
革は乾いてくると縮みますから、その特性を利用して生乾きのうちに柄と握りの形に添うように頃合いを見て何度か革をしごいておきます。
数日して完全に乾いてからナイフを取り出すとシースの入り口から握りの収まる形がくっきりと記憶されます。
今度はその出来上がった型を濡らして崩さないように防水のため蜜蝋のワックスを染み込まして仕上げます。
出来上がった後は、やはり道具ですので日々のお手入れが必要になりますね。
レーサーシューズもナイフの革シースと同じ要領で、自分の足を型にして革のシューズに足の形を記憶させます。
ここまで来てやっとレーサーシューズを買いに行った老舗自転車店の店主の奥様のお言葉が理解された瞬間だったのです。
私のカンガルー革のディアドラは私の足の形に馴染んで、きつさや痛みを伴う最初の苦痛は皆無になっていました。
これでペダリングに集中できる環境になってきました。
このシューズの馴染みという作業はいつの時代でも既製品のシューズを使用する以上、避けられない手間と労力です。
各シューズメーカーはラスト(型)や生地、裁断や製法に研究を重ね、軽量で馴染みやすく快適性の高い製品作りに努力しています。
ただし、それぞれのブランドに特徴がありますので、私のファーストシューズのように履けるシューズと履けないシューズが個々にあることも古今にかかわらず現実です。
それでも現代の自転車用シューズの中には、新品の使用する前から自分の足型に整形できる画期的なシューズがいくつかあります。
あの捨ててしまう寸前の足と一体になっている感覚のレーサーシューズが新品の状態から出来上がるのです。
もちろん、濡らしたレーサーシューズを履いて寝ることも必要ありませんし、繰り返しの雨練習に耐える必要もありません。
当然、ぴったりフィットでストレスから解放されていますので、シューズから立ちのぼるフレグランスともしばらくは疎遠になれますねぇ。

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