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パリ・くらしと彩りの手帳 №24 [雑木林の四季]

"2年後”と題する東日本大震災の報道写真展を日本文化会館で開催  
これにパリの日本人が黙祷
 

                           在パリ・ジャーナリスト  嘉野ミサワ

あの3月11日の記憶は未だに生々しい。それを此れでもか、此れでもかとでも云う様に追う報道写真、見るものの胸に刺さって来る。朝日新聞社、三菱などの肝入りの展覧会である。同じ時にもう一つの展覧会がパリの市庁舎でのあとフランスの第2の町であるリヨンに行くことになった。あのときは私も何もしないではいられない気持ちになって、私なりにロワールにある11世紀のロマネスク教会でのピアノコンサート、そしてパリの外交官国際クラブでピアノと歌のコンサートを開いて、日本赤十字に寄付をした。皆に何とか立ち上がってもらいたい思いで、出来るだけの事を力一杯したのだった。おそらく、外地に暮らしている事が、日本人であるという意識を強めることになったのだと思う。私などもおそらくもしずっと日本に暮らしていたら、そこまでやらなかったのではないかと言う疑問を持つ。フランスの友人達や日本人と仕事をしている団体などもそれぞれに参加したり、主催したり力を合わせたのだった。しかしあのときの犠牲者達は今どこまで回復することができたのだろうか。それにはまだまだ何年も先までかかるのだろうか。今日の儀式では皆の黙祷で心が一つになった思いだった。

何年も前から待たれていた坂東玉三郎の公演がパリのシャトレ−劇場で実現した所だ。このパリの真ん中にある市立劇場はあらゆるジャンルの音楽が演奏される。ここの劇場支配人のジャン•リュック•ショプランにとってもそれは何年越しの希望であり執念に近いものであったと言う。日本に行くたびに連絡をとり、シャトレー劇場に来てほしい旨を繰り返し伝えて来た。そして、昨年の今頃、玉三郎がすっかり打ち込んでいる太鼓のグループの“鼓童”を先ず招いたのだ。そして特別に念入りに迎えた。すべてのメンバーが満足する様に。そして、此れに同行して来た玉三郎との友好関係を一段と揺るぎないものにしたのだ。この方法がうまく作用して、今回の実現を見ることができたのだと、彼は見ている。地唄の公演ではその美しさを100%発揮して、女性を演ずるこの人間国宝の演技を人々は堪能する事が出来た。そして、後半のプログラムでは中国の古い歌劇である 昆劇の公演で、“芍薬の家”を演じ,日本女性とはまた違った女形によって見る人々を魅了してしまったのだ。そのあと玉三郎は文化大臣のオーレリー•フィリペッテイから,芸術家に与えられる勲章を受けた。並んで立っている姿は、女性の文化大臣の方が男性に見えた。

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                  写真: フランスの文化大臣から 叙勲を受けた坂東玉三郎

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シャトレー劇場(パリの中央と云えるシャトレー広場にあるイタリア式建築の劇場で、古くから個々で、オペラやオペレッタ、ミュージカルなどの殿堂としてパリジャンに愛されている劇場)

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                               昆劇“芍薬の家”の舞台から

現在のパリの町にはかわいい動物達の大きなポスターがあふれている。此れは2月23日から3月4日まで続くパリ最大のサロン、農業博覧会の広告である。フランス中の動物がパリに向かって歩いて来たのではと思うくらいに沢山の動物達の群れするサロンだ。長い長い行列をして切符を買い、それぞれの興味に併せて、沢山の建物の中から見始めるが、とても一日で見切れるようなものではない。環境問題に関心のある人、犬や猫のようなペットのコンクールを見る人、牛や豚、馬や羊などの動物達の品評会を見る人、都会暮らしの子供達にこれらの動物達を見せたいと連れて来る親達、週末には特にこのような家族連れで一杯である。

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                   かわいい動物一杯の入場券 今年はサロンの50周年記念

それにフランス各地のブースではそれぞれのご自慢料理が味わえるし、その材料を買える所も在る。今のフランスでは丁度、牛肉の明示してある冷凍料理が、実は馬肉だったという事で国境を越えた問題になっている所だが、馬肉が悪いのではなくて、表示してある事との違いが問題なのである。馬肉の方が安いので、牛肉として売っていたのだが、それがルーマニヤや、イギリス、そしてフランスと複雑な往復をして料理しているから、そのような食品のそれぞれの履歴をはっきりと書くべきであると言う議論が巻き起こっている訳だが、そうするには費用がかかるという反論も在って、毎日のニュースを賑わしている所だ。しかし、この農業サロンの各地方の名物を提供しているレストランでは、その点が確かなだけではなくて、多くの場合、このサロンに動物に付き添って来ている人々の所で育てたものが使われているから、聞けば何年生まれの何と言う名前の牛で、何日に屠殺したものという風に、明確な事を伝える事が出来るから、こういう事に関心が深く、安心感を求める人にとっては最高である。

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                               農業博覧会のポスター

私もこのサロンには毎年行くのだが、それは、、このサロンの機会に行われる食品のコンクールのためである。フランスの食品コンクールの中でも最も権威在るものだが、私の場合は毎年ワインのコンクールの審査員を頼まれるからである。ここで金賞、銀賞をとって、此れがエチケットになってはられるとそのワインの売れ行きはピンと跳ね上がってその一年は御安泰という訳である。フォワグラにしてもチーズにしても同様で、受賞したものは今ではインターネットでも販売されている。さて、このサロンに行く人は、色々あるが、一番熱心なのは何と言ってもフランスの政治家たちである。今年創立50周年を祝うこのサロンに政治家達がお参りする様になったのは何年位前からだったのだろうか。たとえば、初日の早朝、サロンの開く前に、大統領のフランソワ•オランドが到着。それを追うテレビやラジオの記者達、そして、その日の夜のニュースでは大統領は11時間何分農業サロンにいたと言う報道をする。此れは新記録だ。今までも農相出身のシラク大統領がかなりな時間をここで過ごして、農民達の尊敬を買っていたのだったが、ワインを飲まない事で評判を落としたサルコジー大統領も、その分余分にここにとどまって、かろうじてパスしていたのだったが、社会党政権の大統領がここで11時間と何分かを過ごし、差し出されるワインを飲み、食品を美味しそうにつまみ、更に農業従事者達の問題に付いて語っていた事はその日の内に詳しく報道されて、此れで、彼の人気は何点位上がったとか、次の選挙にはどのくらいポイントを挙げられるだろうかと云った推測も早速に話題となる。こうなると、他の政治家達もサロン参りをするのだが、初日は大統領のためのものと云った感じであり、農相すら初日には控え目にしているのが常である。若い政治家達は大臣のポストもこれが早くに一番欲しい所の筈だ。フランスは今でも根深い農業国なのであり、都会に出て働く2世、3世も、いったん事あらば、親のいる田舎に帰ってこそ力が出るのである。

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              フランシュコンテ地方のスタンドでその腕を振るったパトリック•フランチ二                                この地方の美味しい、ワイン“Vin jaune" (黄色いワイン ) を使っての料理はまた格別

かつてエミール•ギメが19世紀の日本に来て浮世絵を知り、そのコレクションを持ってフランスに帰り、此れがもとで、東洋美術の美術館として知られるギメ美術館が出来た訳だったが、もう少し時代が下がって、20世紀の始めに日本に行った、ポール•ジャク−レ(1896−1960)の絵のコレクションの4分の3に当たる2950点が、その日本人の養女によってケ•ブランリ美術館への贈与が決まり、その展覧会が始まった所である。
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ポール・ジャクーレ 
ポールの父が、ドイツ語教師として日本に行くことになり、そのパリ生まれの息子のポールは3歳の時に、日本に行くことになった。今までの日本では猿渡紀代子キュレーターにより、横浜美術館で展覧会が開かれたが、フランスでは国立図書館で既に展覧会があり、そして今回のコレクションの寄贈によって、大きな展覧会となったのである。ポールは早くから日本になじみ、日本の文化を吸収して行った。日本の浮世絵に興味を持ち、そのテクニックを学んだが、彼の描く絵は浮世絵の版画をどこか思わせる作風で、水彩画が多い。第2次大戦中にも日本にとどまって、軽井沢で絵を描き続けていたと言う。父と共にフランスを旅したり、日本から何度もミクロネシアに行ってそこの蝶やその他の昆虫を採集し、此れを描いていたが、更に、そこに住む人々の人体にも興味を持って、その特別な入れ墨や体に付ける装身具なども詳しく描いた。そしてミクロネシアの人々の性生活も民族学者の眼で描き続けた。父の死後、母は、韓国に住む日本人と再婚して、そこに移り住み、ポールは韓国の人々も描いた。東京にジャクーレ版画研究所を開いて、その腕を更に磨いた。ヨーロッパやアメリカでの展覧会でその作品をいろいろと見せているが、その作風は独特のものである。
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ポールの描いた日本
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ミクロネシアの人々を描いた絵

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