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詞集たいまつ №66 [雑木林の四季]

さばく章

                                 ジャーナリスト  むのたけじ 

(2141)雪玉の痛みを知る雪国の子は「雪は、やさしい」なんて言わない。「雪は、はかない、もろい」などとも雪国の者は言わない。最初の根雪となった雪片たちは、自分たちを受けとめた地べたに哀まるごと抱きついて、そして最後の残雪となる。じつに義理がた
い。ギリという発音をすら失念した者どもが「雪は美しい、きれい」などと酒を飲む。

(2142)誓いを立てることは(もう何べんも言ったが)、すでに破約を予想している。それなのに性懲りもなく誓いを連れた約束が繰り返されている。
 

(2143)こらえ性が乏しい、万事に大ざっばで、「何とかなるさ」とブレーキのよくさかない車で坂を下るようなことをする。だから、痩せ我慢とばかにされても我慢するがよい。するだけ、その力が育つ。耐える、こらえる、忍ぶ、その能力が失ってはならないものを
失わせない助っ人だ。

(2144)思い悩む苦しみが、人を成長させる養分だ。自分が自分と対決してけりをつける正念場だ。思い余って他人に相談したり助言を求めたりするのは当人の勝手だが、それをやるとただの思い悩みごっこに下落してしまう。

(2145)悲しむ余り死んだ人は、書かれた物語のほかに見たことがない。喜ぶ余り有頂天になって死んだ人は、あちこちで見た。喜びは曲者だが、悲しみはどんなに深くても人を殺さない。

(2146)「先が見えなくて心細くて歩けない」だって? 怠け者のへっびり腰を棚に上げて、決まり文句のキレイごとを言うな。前方が丸ごと見えたら、一層こわくなって尻込みするのではないか。あるいは、先が見えては、そこに行く楽しみがないと、またぞろ寝そべるのではないか。一寸先が閣だからこそ、おれたちは平気なつらをして先へ進むのでないか。そもそも人間の先は、見るものか、見えるものか。人間の先は、めいめい自分でつくるものでないか。

(2147)詐欺の被書にあいやすい人を見てごらん。自分の落ち度や欠点をきまってひとのせいにしている。

『詞集たいまつⅣ』評論社


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