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シニア熱血宣言 №39 [雑木林の四季]

 冬が駆け足でやってきた

                                     映像作家  石神 淳

 自民党安倍党首の「雪隠攻め」に屈し、野田首相の自棄糞的にも見えた解散明言で、本家の民主党から逃げ出した、火事場の野ネズミ的な離党者多数。第3極への合流タイミングを諮っていた、少数新党の面々も大混乱の中で、師走の選挙戦になった。
 どう言い繕うとも、民主の掲げたマニュフェストに裏切られた庶民にとって、新党乱立の衆院選をどう捌くかの一票こそ、庶民に与えられた唯一の権利なのだが、マスコミの論評を見ても、いったいどうしてよいのやら判断がつきかねる。
 何れにしても、政策不在というか庶民不在の中で、霞が関のシロアリたちは、さぞかしニンマリしながら、政治家不在で、来年度予算編成を行っていることだろう。
 12月16日の投票日は、離合集散をキッチリ見きわめ、渾身の一票を投じなければならないと思っているが、果たして有権者の審判はどうなるだろうか。

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                                                 雪景色の戸隠神社(中社)
   

 世間の騒ぎをよそに、齢76の身としては、そろそろ「終活」に勵まなければならぬのだが、なかなか悟りの境地に辿り着けない。
 そこで長野の戸隠神社へ年末のお参りをして、せめて、もう少し生き延びようかなんて、怠惰な気持ちで旅に出た。趣味で蕎麦打ちを始めてから17年になるが、戸隠の根曲がり竹で編んだ笊にずっと憧れ続けていた。安物の笊で我慢してきたのだから、罰はあたらねぇだろう。笊に盛りつけたら、蕎麦の風格が上がるだろう。これも終活への備えだなんて、勝手な理屈をつけながらね。
 善光寺の左手から登る戸隠への道は、登るほどに雪景色になり、飯綱高原を過ぎたころから本格的な雪道に変わった。山の天気は町とは違う。
  今年の各地の紅葉は、猛暑がやっと去り、10月中旬を過ぎた頃から、一挙に彩りを増した感がある。箱根、奥日光も例年より早かったような気がする。お蔭さまで、渋滞に巻き込まれず紅葉狩りができた。しかし、車の運転は年々きびしくなった。
 戸隠中社の手前にある「原山竹細工店」で、直径43㎝の大笊を一枚購入、六千円也。蕎麦を盛るには、東北の「へぎ」より根曲がり竹の笊が風情がある。来年は、木曽福島を訪ね、春慶塗の「めんぱ」を入手しよう。これも、終活のひとつである。

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                                                 根曲がり竹の笊にボッチ盛り

 せっかく此處まで来たのだから、ボッチ盛りの蕎麦を食べようと、中社一本杉の奥手にある「二葉屋」さんに立ち寄る。「戸隠そば献納祭」の取材で訪れたとき、親切に対応してくれた店だった。
 戸隠神社の奥の院灯明覚書には、講で食された「蕎麦切り」の由来が記されているそうで、修験者たちの手で、武蔵野の深大寺に伝えられ、江戸の粋人たちの「深大寺そば詣で」に繋がったと聞く。深大寺には、元禄時代の絵図が遺されている。
 戸隠の蕎麦切りは、水切りをせず盛りつけ、ビールを飲むような感覚で啜るものだと教えてくれた。竹の笊と冷水が、ボッチ盛りの蕎麦を生き生きと演出してくれる。文字通り山間に育まれた霧下蕎麦の風味だった。
 「来年は、主人と蕎麦を育てようと思っているのですよ」と、二葉屋の若い女将さん。
 来年、まだ終活途上なれば、白い花が咲き乱れる、戸隠の広大な蕎麦畑を、訪ねてみたいものだ。   
 信州には、実には様々な蕎麦があり、人それぞれに好みが違う。友人I氏の父親が中野市から上京した折り、東京の蕎麦屋に連れて行ったら、いきなり店主を出せと怒りはじめ、蕎麦の盛りが少なすぎると説教したそうだ。
 たまたま取材で出会った男。東京でのサラリーマン生活を脱サラした男はこう話した。「サラリーマン時代、蕎麦屋の量が不満で不満でしょうがなかったので、自分で開業したら、盛りのよい手打ち蕎麦を食べさせてやる」と誓っていた。その男、青木賢二郎は、電子企業の社長候補を辞退、戸隠で修行をかさねた後、生まれ故郷の須坂で「高井野そば工房」を開店した。当然、妻は猛反対したが、賢二郎は黙々と蕎麦を打ち続けている。
  取材では、蕎麦にまつわるエピソードをいろいろ聞いた。信州人の蕎麦への拘りは、思いの外強烈であった。みな蕎麦の遺伝子を代々宿しているのだろうか。

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                                       「こそば亭」の古流手打ちそば

  新潟県妙高市(JR新井駅近く)で、幻の希少在来種の(こそば)と呼ぶ玄蕎麦から蕎麦を打っている店を紹介された。育種改良した、茨城県金砂郷の「常陸秋蕎麦」もいっとき有名になったが、評価はまちまちだ。小林一茶の「月と仏とおらが蕎麦」と詠まれたほど、「我田引水」で不変の食べ物はなかろう。
 「こそば亭」は、在来種の玄蕎麦を、割烹仕立てに打った蕎麦で、蕎麦好きを唸らせるに足る名作だ。蕎麦を育種改良しても、その土地に馴染む雑草のようなものだ。
 こそば亭でも、根曲がり竹の笊にひと手間加えた意匠をほどこした笊に、上品に盛りつけ、客の目を楽しませていた。開店して間もなく満席になるのだから、口コミで蕎麦好きを引きつけているのだろう。
 こそば亭では、繋ぎにオヤマボクチを使っているようだが、それを売り物にはしていない。店の中に、さり気なくオヤマボクチの繊維が置いてあった。
 学名:オヤマボクチは、信州では、俗称:ヤマゴボウと呼ばれ、飯山市内から峠ひとつ越した冨倉地区の名物蕎麦だ。長野県の「冨倉蕎麦」と新潟県妙高市新井の「こそば亭」を蕎麦に、オヤマボクチの共通点はあるが、冨倉のヤマゴボウそばは、小麦粉が手に入らなかった昔から伝承された典型的な田舎蕎麦だ。
 今では、新潟県新井市から長野県飯山市冨倉までは、車で1時間もあれば行ける。
 地域間の伝承が結びつき、こそば亭の古流手打ちそばに昇華したのだろう。   
 師走の足音が、木枯らしの風に乗せ枯れ葉を舞い踊らせている。今年も年越し蕎麦を打つ大晦日がやってくる。    

  「二葉屋」   長野県戸隠3517-6 電話026-254-2176  営 10:30~16:00 
 「こそば亭」  新潟県妙高市大字美守 電話0255-72-8628  営 11:30~14:00


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