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軍隊と住民 №46 [雑木林の四季]

4 提訴の影響

                                        弁護士  榎本信行

 この提訴は、予想以上の反響を呼んだ。新聞・テレビは大々的に報道し、提訴当日東急地方師板書八王子支部の上空には報道陣のトバしたヘリコプターが先回するという騒ぎであった。読売の記事に表れているようにむしろ当事者たちは、長い闘いの一里塚だと思い平静であった。といっても、むろんこうした大きな反響は、当事者にとってありがたいことであった。
 朝日、読売、毎日などの各紙は、訴状の要旨を掲載し、4月29日付毎日新聞は、「横田基地騒音訴訟の問題点」という社説を掲げ、「現在の国際情勢を見ても、それほど緊迫した条件があるとは思えない。複雑な手続きはあろうが、その気になれば飛行計画を組み直すことはできるはずだ。安保条約の運用を話し合う日米合同委員会は、こうした議題を真剣に討議すべきときである。安全保障とは国民の安全を守ることだという原点に立ち、この間題に取り組んでほしい」と論じた。
 同じように基地公害に悩まされている沖縄の新聞「沖縄タイムス」は、4月29日付で「平和的生存権と基地騒音」と題する社説を掲げ、つぎのように論じた。

 「横田訴訟」は、環境権としての騒音被害の解消を求めながら、軍事行動を規制し、国の根幹にかかわる国防問題を問い直させているという点で「平和的生存権」についての問題提起をしているともいえるのではないだろうか。
 環境問題が、長い住民運動を経てようやく定着したように、平和的生存権の問題も、住民運動の幅を広げることによって定着することになろう。沖縄としても「横田訴訟」を支援し、共闘していくことによって、沖縄が抱える基地問題を解決する突破口とすべきではないだろうか。

  横田訴訟は、全国の住民運動にも影響を与え、すでにこの年の3月30日福岡空港周辺住民がほぼ横田基地と同じ形の公害訴訟を提起していたし、同じ年の九月には、厚木基地周辺住民がやはり同形の公害訴訟を提起し、10月には、嘉手納基地周辺で社会党県本部が爆音防止共闘会議の準備会を結成した。
 住民による訴訟提起は防衛施設行政にも大きな影響を与えた。同年10月20日付の「防衛施設広報」は、「鋼崎施設部長訓示要旨」を掲載しているが、その中で同部長はつぎのように述べている。

 今日の基地問題もその例外でなく<環境の保全、調和のとれた生活など環境保全施策推進>、多様化している国民意識を背景に生活に密着した環境の保全を中心に展開していると考えます。
 このうちもっとも深刻化しているのが航空機覇者にかかわる環境基準の早期達成及びその維持の問題であります。
 去る昭和50年9月小松基地周辺住民から、また、本年4月横田飛行場、迫って九月厚木飛行場のそれぞれの周辺住民から「夕刻から早朝までの飛行禁止と人格権ないし環境権の侵害に伴う損害の賠償」を内容とする訴訟が提起され、次いで築城基地及び嘉手納基地からも同様な訴訟が起こされる動きがあります。
 ひるがえって本間題を考えてみますと、自衛隊及び米軍の航空機並びに飛行場等については、その任務の特性上、いわゆる公害対策の根本的施策である航空機自体の騒音軽減措置並び飛行場等の位置の変更を実現することは極めて困難であります。
 したがって、飛行時間帯及び飛行経路の制限、飛行方法の規制を行うとともに、後衛地帯の整備、住宅の防音工事の実施等による周辺地帯の環境の改善につとめているところであります。

 もっともこの訓示は、航空機自体の騒音軽減措置、基地の移転など音源対策は安易に放棄して、飛行時間帯及び飛行経路の制限、防音工事などに対策を限っていこうとする方針を変えようとはしていない。その意味では、時間帯を区切った飛行差止請求の運動的限界を示している。

『軍隊と住民』日本評論社


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